妻への手紙(5)
 以下の文章は、私から妻の登志子へ手渡した手紙を、一部の固有名詞等を除き、そのまま掲載しています。
 こうした親書を公開する理由は、同様の問題を抱えている方の参考に少しでもなればという思いからです。
 これを書いたときは、公開することを考慮せずに書いていますので、私と妻の間でしか分からない事情も多少あるかも知れないことを承知の上でご覧下さい。


登志子さんへ(5)

 「雨降って、地固まる」という諺がありますが、今回のあなたと私の間に起こったことは、ある意味では良かったのかも知れないと思っています。

 私はあまり人のことを詮索したり、自分の考えを相手に押しつけようとするのは嫌いですから、多少気になることがあっても、どちらかというと放置しがちでした。
 あなたが宗教を信じようが、部屋の片づけができなくても、それをことさら取り上げて議論しようとはしませんでした。しかし、そうした私の行動は日常生活に波風は立たずに一見平穏に流れて行きますが、問題点を放置したままでは解決が先送りされるだけで、根本的な解決には至りませんでした。

 今回のことでは、あなたも色々心労が重なったことと思いますが、私も必死でした。あなたにしてみれば、私の強引とも思える言動が理解できない場面があったかも知れませんが、私にしてみればなんとしてもあなたに分かってほしいという気持ちがそうさせたのであり、決してあなたが嫌いになったりしたのではありませんので、理解してください。

 あなたが御守りを外してくれたことは、あなた自身に対する回答であるとともに、私に対する回答と受け止めています。しかし15年という長期間御守りを付けてきたという「重み」があり、あなたの心の中では、それほど簡単に割り切れない部分もあるのではないかと心配しています。なにか悪いことがあると、「御守りを外したためではないか?」と思ってしまうこともあるのではないかと心配します。でも、御守りのあるなしに係わらず、人間が生きていく上では幾多の困難や災難、病気に見舞われることはあり得るものです。色々な困難があっても夫婦が、家族が力を合わせて解決策を見つけだしていく中で夫婦、家族の絆が深まっていくものだと思います。
 もし、あなたが不安になったり、一人で悩むようなことがあったら遠慮なく私に相談してほしいと思います。私はあなたのことをとても大切に思っています。日頃の接し方からはそのように写らないかも知れませんが、私はあなたのことが今でも大好きです。あなたと結婚して本当に良かったと思っています。今回の宗教問題や部屋の片付け等の問題はあっても、それは生きていく上で発生した一つのできごとであり、解決できない問題ではありません。そうした枝葉の問題で基本的な人間性まで否定したりはしませんので安心して下さい。

 今回のことでは確かに危機的な場面もあったと思いますが、「災い転じて福となす」という諺もありますので、これを良い方向への転機ととらえたらいいのではないでしょうか。結婚後はこうしてあなたと心を割って話をする機会は今まであまりありませんでしたが、これからはできるだけ何でも話し合って行きたいと思っています。かといって、ささいなことまで口出ししようとか、拘束しようということではありませんので誤解しないで下さい。互いの個性を尊重し、相手を信頼してそっと見守ることも大切なことだと思っています。

 あなたと一緒に楽しい熟年・老後を暮らして行きたいと思っています。これからも、よろしくお願いします。

平成○年○月○日

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