前打ち
1、前打ち(前打ち報道)
一般の方にはあまりなじみのない言葉ですが、事件関係者の逮捕や捜査機関による強制捜査が行われることをマスコミが先に報じてしまうことを「前打ち」または「前打ち報道」と言います。前打ち報道が行われると事件関係者に捜査機関の動きや捜査の進展具合を察知されてしまうため、証拠が隠されたり、場合によっては被疑者に逃亡されることもあり、捜査機関にとってマスコミに前打ちされることは大きな痛手となる場合があります。
2、S新聞社による前打ち
2011年2月11日(金)は建国記念日であり、私は仕事が休みだったので家でゆっくりしていた。午前11時を少しまわったとき、私の携帯に電話がかかってきた。電話はある新聞社の記者からだった。
記者は開口一番、「S新聞の記事はご覧になりましたか!」と言った。私の家で取っている新聞は別の新聞だったのでS新聞は見ておらず、携帯電話で記者と話しながら慌ててネット版のS新聞ニュースを検索してみた。
するとそこには、霊感商法 「神世界」詐欺容疑で近く立件へ 神奈川県警と題した記事が掲載されており、私はあの3年前の悪夢を再び見た思いがして一瞬頭がクラクラした。
横浜地検や神奈川県警が昨年末辺りから神世界事件の捜査を活発化させていることは”風の便り”で私も知っていた。1月末辺りになるとマスコミ各社から神世界事件に対する取材要請が相次ぎ、いよいよXデーが近づきつつあることは濃厚となっていた。
Xデーに備えてマスコミ各社はいろいろの角度から取材を進めており、私も被害者を紹介するなど、できるだけマスコミに協力していた。
あるテレビ局の担当社は、「立件があれば勿論ですが、立件がなくても神世界事件を風化させないようにするため、取材させてもらった内容は必ず放送させてもらいます」と言ってくれた記者もいた。
マスコミの取材要請に応える際、被害者に迷惑がかからないように十分注意して取材するようには毎回伝えていたが、神世界事件を巡っては3年前、ある新聞社が県警の強制捜査前日に家宅捜索情報を”前打ち”してしまい、捜査に大きな支障を生じた痛恨の出来事があり、各社ともまさかその件を忘れてはいないだろうという私の勝手な思い込みから、「前打ちはするな」とまでは伝えていなかった。
しかし3年前と同じことが再び起きてしまった。多くの被害者がこれまで多くの時間を費やして警察の捜査に協力し、何とかして神世界関係者の逮捕を実現させようとしてきたことが、こうした一部マスコミの配慮のない報道によって崩れ去ってしまう恐怖を感じた。
3、S新聞社への抗議
記事を読み終わった私は、直ちに机の横にある電話からS新聞横浜支局の神世界事件担当記者に電話をかけた。今回の記事に登場している被害者は、S新聞社からの取材要請に応えて私が紹介した被害者であり、S新聞横浜支局の神世界事件担当記者の電話番号は予め知っていた。
すぐにS新聞横浜支局の神世界事件担当であるK記者が電話に出た。私が強い口調で立件予定を前打ちしたことを非難すると、K記者は「報道の自由」を口にして反論した。K記者は「県警に記事を止める権限はない」、「県警には記事を出すことを事前に伝えた」、「県警からは記事を出すなとは言われていない」とも言った。
神世界事件に関する報道はこれまで幾度となくなされており、神世界事件の内容について報道することは何ら問題ない。しかし警察の捜査状況を前打ちするのは全く次元の違う問題だ。
被害者に対する取材を行ったのはK記者であろうが、捜査状況の前打ちまで含めた記事に仕立て上げたのはもっと上の者であろうと思われたので、これ以上K記者を詰めてもらちが明かないので、上司に抗議の電話があったことを伝えるように告げて電話を切り、夜になってから下記の内容をメールでS新聞社に送った。
株式会社S新聞社
東京本社編集局横浜総局
K記者殿
本日の午前中、神世界事件に関する貴社の報道に対して抗議をさせていただいた神世界事件関連HPを主宰しているfujiyaです。
あなたが電話で述べたようにマスコミには「報道の自由」があります。
それは日本国民に言論の自由が保障されているのと同じ重さがあり、決してどのような権力によっても冒されてはならない大切な権利です。
しかし権利を主張されるからには、その権利に伴う義務も果たさねばなりません。
マスコミの義務についてあなたはどのような見解をお持ちなのでしょうか。
抽象的な話では論点が噛み合わないといけませんので、具体的な事例でお話しさせていただきます。
3年前、神奈川県警によって神世界関連施設への一斉家宅捜索が計画されていた前夜、共同通信社は県警の中止要請を振り切って、「家宅捜索が行われる予定」との記事を出してしまいました。
その結果、全国の神世界関連施設では徹夜で証拠書類の焼却や隠蔽が行われ、その後の事件捜査に大きな支障を生ずる結果となりました。
マスコミが取材によって得た情報を国民に提示するのは当然の行為ですが、「いつ、どのようなタイミングで報道するのが適切か」については十分な吟味が必要です。
「報道の自由」を叫び、県警の制止を振り切って家宅捜索に関する報道を行った共同通信社の行為について、あなたは正しい判断だったと思いますか。
そして本日の貴社の報道はどうだったのでしょう。
あと少しで関係者の検挙が行われることを息をひそめて待ち望んでいた多くの神世界被害者が、本日の貴紙の報道を見てどのように思ったか分かりますか。
私も、そして多くの被害者も、あの3年前の悪夢の再現かと思いました。
今回の地検や県警の捜査状況については、主要新聞社、主要テレビ局が取材を続けています。私もマスコミ各社に協力して取材の便宜を図ってきました。
貴紙以外の各社は、このタイミングで貴紙があのような報道を流したことに一様に驚いています。あからさまに、「3年前と同じ暴挙だ」とまで述べる記者もいます。
マスコミには「報道の自由」があります。
それと同じ重さで、「マスコミには弱者を守る義務」がある筈です。「マスコミの報道によって弱者を苦しめる結果となってはならない」という強い信念を持って報道に当たらねば、ペンが凶器となってしまう危険性があります。
弱者を守る義務を忘れ、他紙を出し抜くだけに専念するマスコミであれば、それは社会にとって、市民にとって危険な存在でしかありません。
あなたの考えでもよろしいですし、あなたが回答できないのであれば上司の方でも結構ですので、今回の貴紙の報道についての見解をお聞かせ願いたいと思います。
すでにお読みかとは思いますが、3年前の件については下記に記事があります。
kisha_mail.html
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
家族を新興宗教から守ろう
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/9575/
●● ●●
anti_cult2004@yahoo.co.jp
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
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3、被害者、県警、同業者の怒り
S新聞の記事が出た翌日、私は県警関係者と今回の前打ち記事の件で話をしたが、その者は、「これでは3年前と同じだ」、「被疑者に証拠を隠すチャンスを与えるだけだ」、「被疑者が逃亡したらどう責任を取るのだ」と激しく非難した。
これまで警察の捜査に協力してきた神世界被害者数名もS新聞の記事を見てすぐにS新聞社に抗議の電話をかけたり、抗議のメールを送った。
ある被害者は、「今裁判をしてる原告の立場として、このような報道はとても迷惑だ。これでは被疑者達に逃げろといっているものだ。言論の自由はわかるが、(立件を前打ちするのは)犯人側に加担しているのと同じだ!」という趣旨の電話をかけた。
また別の被害者が、「これでは3年前のK社による前打ち報道と同じだ」と抗議したところ、対応したS新聞社の担当者は、「K社の件と同じにされるのは心外だ。今回の記事は、詐欺事件を正当に扱ったものだ」と返答した。
またこの担当者は、「こういう事件を世の中に伝えていくのが新聞の公益だ」とも述べた。これに対して被害者が、「事件解決が真の公益だ」と述べると、S新聞の担当者は、「その思いは私達も同じだ」と述べた。
この時期は他紙の記者からも取材要請が寄せられていた時期でもあり、S新聞の前打ち報道後に数名の記者と話をする機会があった。その際、今回のS新聞による前打ち報道について感想を求めると、一様に「あのタイミングでの前打ちはまずかった。同業者として恥ずかしい」と述べていた。
4、問題点は捜査状況を前打ちしたこと
私がメールによる抗議文を送った後、丸一日経ってもS新聞社からの回答はなく、被害者の抗議に対するS新聞社の回答を見ると担当者は前打ちしたことに対して何ら問題意識を持っていないと思えたので、再度私から前打ちの問題に絞った下記の内容をメールでS新聞社に送付した。
株式会社S新聞社
東京本社編集局横浜総局
K記者殿
神世界事件関連HPを主宰しているfujiyaです。
2月11日に貴社が神世界事件に関する報道を行ったことに関してメールでのご説明がまだいただけていないので、再度私から意見を述べさせていただきます。
今回の貴社の報道に関して、数名の神世界被害者の方も抗議の電話やメールを送ったと言っておりますので、被害者の方が怒っているのはすでにご承知のことと思います。
私や被害者がなぜ怒っているか分かりますか。
神世界事件に関する報道はこれまでも多数行われており、事件を風化させないようにするため、私も被害者もできるだけマスコミには協力してきたつもりです。
今回の貴社の報道も、その全てがまずかったと言ってるのではありません。被害者から被害実態を取材し、事実に基づく報道を行うことは、市民が同種霊感商法事件に巻き込まれないように警鐘を鳴らす意味もあり、大変意義深いことだと思います。
問題点はただ一つ、「女社長ら5人前後を近く立件する方針を固めた」と”前打ち”した点です。
この報道を見た神世界関係者がこの後どのような行動をとるか判断できますか。
神世界側は警察の捜査が行き詰まっており、関係者が立件されることはもはやなかろうと高をくくっていました。
それは彼らが発行している神世界新聞の内容にも表れており、一時は休止させていた活動も再開させるなど、彼らの活動は徐々に活発化していました。
彼らを油断させておき、ある朝一気に関係者を逮捕する方が、より効果的な捜査が行えることは誰でも分かることです。時効が迫っている事件でもあり、関係者が逃亡し検挙できなくなれば立件そのものができなくなってしまいます。
私は今回の貴紙の報道が流れた後、県警の捜査担当者と電話で話をしましたが、その担当者も貴紙の報道に対して激しい怒りの言葉を発していました。今回の貴紙の報道が捜査に及ぼす影響は大きく、3年前と同じことの繰り返しだとも述べていました。
「事件解決が真の公益だ」と述べた被害者からの抗議電話に対し、応答された貴社の担当者は「その思いは私達も同じだ」と述べたようですが、捜査に悪影響を及ぼすような報道を行っておきながら「公益」を口にする資格はありません。
神奈川県警による神世界事件捜査を巡っては、「吉田元警視の懲戒免職処分と引き替えに逮捕はないとの裏取引があった」、「生活経済課が渡辺巧本部長(当時)に吉田逮捕の決裁を求めたところ却下され、現場には、”捜査継続”という名で、要するに何もさせず、事実上の事件つぶしが行われている」などという話も伝えられており、マスコミに公益を守ろうとする姿勢があるのならば、こうした内容について深く追及することこそが公益を守ることだと思います。
神世界事件を巡っては、神世界関係者の逮捕を目標にして、これまで3年間多くの被害者が気が遠くなる程の時間をかけて警察の捜査に協力してきました。
しかし神奈川県警内部の問題もあって捜査は遅々として進まず、一時は捜査がこのまま打ち切りになるのではないかとさえ思われました。
しかし横浜地検への働きかけが功を奏したことや県警本部長の交代などがあり、やっと関係者逮捕が実現しそうになってきたところで今回の貴紙の報道があり、これまでの捜査協力が水の泡になりかければ、多くの被害者が怒るのは当然のことです。
今回の貴紙の前打ち記事の後、他紙、他局は一切この件を報じないのはなぜだと思いますか。それは現時点での前打ちは捜査に悪影響となるであろうことを理解しているからです。他紙、他局が追随しなければ、産経の記事は誤報だった神世界側に思わせることもできるかもしれないと述べた記者もいます。
私も通常であればマスコミが神世界関連の記事を出した場合はすぐに掲示板で知らせるのですが、今回の産経新聞の報道に関しては一切触れていません。神世界関係者は毎日私のHPや掲示板を見ているので、神世界側を警戒させる言動は一切封じています。
現在進行中の事件を報道する際は細心の注意を払う必要があり、配慮不足の報道は事件解決を遅らせ、公益を損なうだけの結果となります。
マスコミが行う「前打ち」に関しては、2005年1月に当時東京地検特捜部長であった井内顕策氏が極めて明快な発言をしたことはご存じと思います。
井内氏の発言は「そこまで言うか」と思わせる大胆な内容も含まれていますが、3年前の共同通信社の前打ちや今回の貴紙の前打ちを目の当たりにすると、井内氏の発言は的を射たものであると思われます。
先刻ご承知とは思いますが、井内氏の発言を下記に添付しておきます。
2011.02.13 fujiya
(以下、2005年1月、東京地検・井内顕策特捜部長(当時)の発言)
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(前略)
「さらにマスコミとの戦いがあります。正直なところ、マスコミの取材と報道は捜査にとって有害無益です。マスコミが無闇に事件関係者に取材したり、特捜部が誰を呼びだして取り調べたとか、捜索をしたとかの捜査状況の報道をしたり、逮捕や捜索の強制捜査のいわゆる前打ち報道をしたりすることによって、事件関係者に捜査機関の動きや捜査の進展具合を察知され、事件関係者が否認や黙秘に転じたり、その口が固くなって供述が後退したり進展しなくなったり、証拠隠滅工作がなされたり、関係者の逃亡やあげくの果てには自殺に至るということが少なくありません。
そのような報道や取材は、まさに、捜査を妨害し、事件を潰して刑事責任を負うべき者や組織にそれを免れさせ、社会正義の実現を妨げ、犯罪者及び犯罪組織を支援している以外の何物でもありません。それは、同時にマスコミが犯罪者そのものに成り下がっていることの現れであるといって少しも過言ではありません。
私は、常々、記者らに、そのような取材や報道に何の社会的意味があるのか、彼らは犯罪支援をしていて恥じないのかと言っているのですが、まともな反論を聞いたことがありません。
私の指摘が正鵠を得ているが故に有効な反論をし得ず、逃げているだけなのです。
その上、マスコミは、無責任に捜査をあおるだけあおっておいて、結果があおった通りにならないと、一転して手の平を返すごとく捜査を揶揄したり皮肉ったりするのが常套手段です。
しかも間違ったあるいは捜査妨害の報道や取材をしても、謝罪するどころか、理論をすり替えて他に責任を転嫁するのが彼らのこれ又常套手段です。この世の中で、マスコミほどいい加減で無責任な組織はないというのが、私が特捜検事を長くしてきた経験に基づく実感です。
そして、そのような取材や報道をする記者達の動機は、社会正義の実現などという崇高なものでは決してありません。自分がマスコミの社内で高く評価されるための功名心、あるいはそれと裏腹の自分が低く評価されて左遷などされないための自己保身以外の何物でもないのです。
実際に、数は少ないのですが、それでも多少でも心ある記者は、私に内々そのような動機に基づく取材や報道であることを認めています。
以前に、法の華三法行という組織の犯罪について強制捜査(これ自体は警視庁が担当したものですが、本質は何も変わりません)の前打ち報道をしたことが原因となって証拠隠滅がなされたことがあり、読者からその前打ち報道について批判されたことがありました。
その批判に対して、その社の記者は、「捜査の進展を把握し、正確かつできるだけ迅速に伝えることは、報道機関の責務であり、捜査機関をチェックするうえでも必要なことだとも考えている」旨の弁明記事を掲載しました。
しかし、 これは、私に言わせれば詭弁の最たるものです。どこに捜査の進展を把握し、正確かつできるだけ迅速に伝えることによって事件が潰れ、犯罪者がその罪を免れて良いと考える国民がいるでしょうか。少なくとも良識のある国民はそんなことは一つも望んでいません。
しかも正確な報道どころか、誤った報道が多いのですからこの弁明は噴飯ものです。また、そもそも捜査機関のチェックをすることによって事件を潰してしまったら元も子もないはずです。
それ以上に捜査機関のチェックができるだけの見識と良識を持った記者に今までついぞお目にかかったことがありませんし、本当に捜査機関のチェックをするというなら捜査後でなければし得ないはずです。
そのような意味で、マスコミは、やくざ者より始末に終えない悪辣な存在です。少なくともやくざ者は、自分たちが社会から嫌われ、また社会にとって有害な存在であることを自覚し、自認しています。
ところが、マスコミは表面的には社会正義の実現などというきれい事を標榜しながら、実際はそのような卑しい薄汚い動機に基づいて捜査を妨害し、社会正義の実現を妨げ、犯罪支援を行っているのです。厚顔無恥も甚だしいものがあります。まさに百年河清をまつ思いです。
そのようにマスコミは本当に有害無益な存在です。マスコミに気づかれずに強制捜査に着手できれば、その捜査はほとんど成功したといっても過言ではありません。例えば、先に触れた金丸信自由民主党幹事長らによる脱税事件、元建設大臣中尾栄一らによる受託収賄事件、中央社会保険医療協議会をめぐる贈収賄事件などがその典型例であり、マスコミに気づかれずに捜査を進めることができたことが一因となって、金丸や中尾あるいは中央社会保健医療協議会関係者の自白も得られたのです。
逆に捜査がマスコミの取材や報道に巻き込まれ、妨害されて、困難を来したり、事件が潰れたり、事件が伸びずに末端の者の摘発だけで終わって本来摘発されるべき者が摘発されなかったという例は枚挙にいとまがないのです。
そのため、いかにマスコミに気づかれずに隠密裡に捜査を進めていくかについて神経をすり減らす毎日です。
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5、S新聞社キャップの説明
上記のメールを送った後、やっとS新聞社のK記者から連絡があった。連絡してきた内容は、K記者は責任者として回答できる立場にないため、代わって上司のキャップから説明させてほしいとのことであった。
私はメールによる回答を求めていたにも係わらず、S新聞社のキャップは面会もしくは電話での説明を求めてきた。なぜメールでの回答ができないのか尋ねると、「メールでは一方通行になる。電話か面会でお話ししたいというのは、その場で疑問や質問に答えられると考え、直接お話ししたいという気持ちから申し上げているのです。これは善意の気持ちからです」とのメールによる回答があった。
メールは互いの言い分が文字となって残るので、後になってからでも明確に確認できる。会話では「言った、言わない」といった問題が生ずるおそれもあり、私は極力メールでの説明を求めた。疑問や質問があればメールのやり取りを数回繰り返せば良いだけのことだ。しかし、S新聞社のキャップはメールでの回答を望まず、電話もしくは面会しての説明を求めてきたので私はやむを得ず、今回に限り電話で話をすることにした。
約15分間にわたってS新聞のキャップであるO氏と電話で話をしたが、「前打ちの是非」について論ずる以前の問題で紛糾した。O氏は冒頭から、今回電話で話した内容が公開されたり、他者に伝わるの非常に警戒しており、O氏は私の口封じをするような発言をしたので「あなたのその発言は私の口封じをする内容だ」と私が声を荒げた場面もあった。
O氏は私が聞きたい「前打ちの是非」についてはなかなか言及せず、それ以外の枝葉の問題に話題を振ろうとする意図が強く感じられた。私が強引に今回の前打ち報道に関するO氏の見解を問いただしたところ、O氏は、「速報性は新聞社の使命なのであの記事を出したことは問題ないと思っている」。「強制捜査やその後の捜査で必要な証拠はすでに押さえられている筈なので(あの報道によって証拠隠しされたりする)危険性はないと思う」と述べた。
私や多くの被害者、その他関係者がS新聞の報道を見て怒っていることなど眼中にないようなO氏の発言を聞いて、彼は一体どこに顔を向けて報道の仕事をしているのかと、私は大きな疑問を感じた。O氏の発言にはマスコミ人としてあるまじき発言もあり、私はO氏のような人間が大手マスコミのキャップであることに大きな違和感、嫌悪感を持った。被害者の心情を全く理解しようとしないO氏とこれ以上話しても無駄なので、今回の話し合いによって得るものは全くなかったことを告げて電話を切った。O氏との話し合いを終え、私のS新聞社に対する不信感は話し合いをする前より数段大きくなった。
自分で言うのもなんだが、私は至って温厚な性格で、ここ数十年大きな声を上げて怒ったことは一度もなかったが、0氏との話ではふつふつと怒りがこみ上げ、つい大きな声を出してしまった。
6、被害者との約束も破ったS新聞社
2/19になって、私は大きな勘違いをしていたことに気づいた。それは、S新聞が2/11に報道した記事の中で、被害者を取材して記事にした内容にも大きな問題があったことを今まで見落としていたことだ。
私はS社に宛てたメールの中で、「今回の貴社の報道も、その全てがまずかったと言ってるのではありません。被害者から被害実態を取材し、事実に基づく報道を行うことは、市民が同種霊感商法事件に巻き込まれないように警鐘を鳴らす意味もあり、大変意義深いことだと思います。」と述べていたが、実はこれは大きな間違いだったことが2/19になって分かった。
S新聞社の取材を受けた神世界被害者のAさんが2/11(金)のS新聞の報道内容を確認したのは報道から9日後の2/19(日)だった。AさんはS新聞を取っていなかったので自分が取材に応じた記事がどのような内容になっているか確かめようと思い、2/19(日)に自宅近くの図書館へ出向き2/11付けのS新聞を閲覧した。
記事を読んだAさんは、「驚いて顔が青ざめました」とメールで私に伝えてきた。それはS新聞紙面に掲載された記事を読めば、そこに書かれている被害者がAさんであることは関係者であれば一目瞭然の内容だったからだ(Aさんからの要望により、上記紙面写真の記事にはAさんを取材して書かれた内容は掲載していません)。
私はこの記事を読んだとき、「Aさんは取材に応じたのが自分だと特定されることを恐れず、随分明確に自分が受けた被害について語り、その内容が記事になることを了解してくれたんだ」と感心した。
しかし実際はそうではなかった。Aさんは担当のK記者には、くれぐれも「人物が特定されるような内容にはしない」と約束を頂いておりましたと述べており、そうした約束があったからこそ安心して詳細な内容を話したのだ。
記事を読んだAさんは、K記者には事前に「この内容で問題がないかどうか」連絡をいただきたかったと私に述べており、Aさん自身もK記者に対して抗議のメールを送った。
S新聞は警察の捜査情報を前打ちしただけでなく、取材に応じた被害者との間で交わした「人物が特定されるような内容にはしない」との約束を破り、容易に個人特定が可能な内容の記事を掲載して被害者に大きな精神的苦痛を与えた。S新聞社の今回の報道は報道被害と呼ぶにふさわしいものだ。
今回のS新聞社による一連の行為は、「報道の自由」をはき違えた愚かなマスコミが今なお存在することを改めて私たちに知らしめる結果となった。「ペンは剣よりも強し」という言葉があるが、愚かなマスコミが振り回すペンは市民を傷つける凶器でしかない。
今回のS新聞社の行為を、「一部の行儀の悪いマスコミの問題だ」とするのか、「マスコミとはその程度のものだ」とするのか、「マスコミ全体の問題として改善を図るべきだ」とするのかはマスコミに携わる者全員が真剣に考えるべき問題だ。
S新聞社の今回の報道は大変遺憾であるが、S新聞社以外の多くのマスコミ関係者は秩序ある対応をしてくれていることも事実であり、私も今後はマスコミとマスゴミを見分ける目を持たねばと思う。
S新聞社から今回の件に関する謝罪及び改善策が示されない限り、今後私がS新聞社からの取材要請に応ずることはあり得ない。
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