神世界幹部15人を刑事告訴

告訴を報じた新聞各紙
1、告訴状の提出
 2010年2月12日(金)、神世界事件被害者15名は(有)神世界幹部15名を詐欺の疑いで神奈川県警に刑事告訴した。
 今回の告訴については事前の情報がほとんどなかったため、告訴のニュースを見て驚いた神世界被害者も多かったが、実はこうした告訴が行われる可能性については神世界被害者から(有)神世界代表取締役・日原易子に対して出された「通知書」に書かれていた。
 この通知書とは、平成20年2月26日の第一次から平成20年9月24日の第四次まで行われた(有)神世界に対する返金請求の通知書だ。通知書には、「上記期限内に支払いがない場合、若しくは話し合いを含めた誠意ある回答をいただけない場合には、神世界及び神世界の活動をなどに対し、民事訴訟の提起、刑事告訴等の法的な手続きに着手させていただきます」と通告してあった。
 この第一次から第四次までの返金請求で被害者87名(被害対策弁護団結成前から請求していた5名を含む)は神世界に対して約2億4600万円の返金を求めたが神世界側は不誠実な対応に終始し、全く返金に応じなかった。このため神世界被害者は通告した通り、神世界及び神世界幹部に対する民事訴訟、そして今回の刑事告訴へと対応を強化させた。
 今回の神世界幹部15名に対する刑事告訴は神世界側の不誠実な対応が招いたものであり、神世界側は自らの手で幹部15名を刑事被告人とする道を選択したことになる。

 告訴状には事件の内容が詳細に綴られており、15名の神世界幹部らは、2003年以降、健康問題などに悩む男女15人に「病気が治る」などととうそを言い、祈祷や物品購入を勧め、現金をだまし取ったとしている。訴状には個々の告訴人がサロンでどのような言葉で勧誘や欺罔を受けたかを一覧表にしたものが添付されているが、これとよく似た内容が不安になった言葉アンケートや、サロンでこんなことを言われたことがあるにも掲載されている。
 告訴状には、宗教社会学の分野で著名なK准教授の神書に対する見解も記載されており、K准教授によると、「神書は通常の教典では考えられない金銭収奪に向けた異常な書物である」と結論づけている。

 なお、被害者から告訴状を受け取った神奈川県警は、「内容を精査して回答する」として正式受理は後日に持ち越した。  過去の事例を見ても、詐欺で告訴を受けた警察はすぐに正式受理は行わず、立件する方針が概ね固まってから告訴を正式受理することが多い。受理すると捜査機関に様々な義務が生じるために、すぐに受理することを嫌がることが多い。


告訴状に記載された被告訴人15名(まだ正式受理はされていない)
No. 被告訴人 所属会社など
1 齊藤 亨 有限会社神世界
2 日原 易子 有限会社神世界
3 齊藤 葉子 有限会社神世界
4 飯窪参希江 有限会社神世界
5 和田 美和 有限会社びびっととうきょう
6 和田 健史 有限会社びびっととうきょう
7 杉本 明枝 有限会社E2
8 淺原 史利 有限会社えんとらんすアカサカ
9 栗山 悦子 有限会社えんとらんすわーるどヒルズ
10 淺原 嘉子 有限会社えんとらんすスリートゥー1
11 佐野 孝 有限会社えんとらんすスリートゥー1他
12 佐野 りら (えんとらんす統括室)
13 遠藤 真弓 有限会社えんとらんすアカサカ他
14 宮入 英実 有限会社みろく
15 宮入 英彰 有限会社みろく




2、弁護団の記者会見
神奈川県庁で記者会見をする弁護団
 提訴後、神世界被害対策弁護団は神奈川県庁で記者会見を行った。告訴状の提出は午後5時という遅い時間に行われ、記者会見はその後に行われたため告訴のニュースが流れたのは同日夜から翌日にかけてとなった。
 神世界被害対策弁護団(紀藤正樹団長)は、「現在、東京地裁で行われている民事訴訟の原告は41名だが、そのうち29名が病気を理由に神世界から勧誘を受け多額の金を出している。想像以上に病気理由が多いことが把握できた。神奈川県警による捜査でも病気を理由とする内容について捜査していた。原告の中には告訴意思のある方もいたので、告訴するのが妥当と判断した。被害者の中には被害を受けたことを家族に知られたくないと思っている人も多く、今回、告訴人となる決断をした被害者は15名だ」と述べた。
 刑事告訴の対象となった被害額については、「民事は過失の詐欺でも不法行為となるが、刑事は”故意”が立証できないと通用しない。今回の告訴人15名の実際の被害額は7,000万円強だが、そのなかで勧誘と結果の因果関係が明らかな約2,800万円の被害を告訴の対象とした」と述べた。
 被告訴人15名の中に神世界トップ(S藤T)を含めたことに対しては、「神世界を辞めたスタッフや先生からの聞き取りで、サロンの経営についてS藤Tが関与しているのが十分わかっている。教団幹部はサロン内での服装や客の勧誘方法まで指示を出しており、詐欺であることを知っていた可能性が高い。神世界事件は人の弱みにつけ込んだ組織的犯行だ」と指摘した。

 告訴は警察もしくは地検に対して行うことができるが、今回の告訴が横浜地検ではなく神奈川県警に対して行われたのは、これまで神世界事件を捜査してきたのが神奈川県警生活経済課であり、神奈川県警が最もよく事件の内容を分かっているので県警に告訴状を提出したとのことだ。この日の記者会見で紀藤正樹弁護士は、「真相解明には県警の捜査が不可欠」と述べた。


3、詐欺罪の構成要件
 霊感商法に詐欺罪(刑法246条)を適用しようとした場合、「欺罔(ぎもう)」の立証がポイントとなる。「欺罔」とは、人を「騙す」、「あざむく」ことだが、行為者に欺罔の意志があったことを立証する証拠を得るというのは簡単なことではない。例えば、

事例1 Aさんは友人Bに金を貸したがBはこの金を返却期日が過ぎても一向に返却しなかった。Bは金を借りた当時は返却するつもりだったが、その後事情があって返却できなかった。
事例2 Aさんは友人Bに金を貸したがBはこの金を返却期日が過ぎても一向に返却しなかった。Bは金を借りた当初からこれを返却するつもりはなく、騙して金銭を得ようとしていた。

 事例1は詐欺罪に当たらないが事例2は詐欺罪となる。しかし事例2を詐欺罪に該当すると結論づけるためにはBが金を借りた際の心証をどのようにして立証するかが問題なる。Bに問いただしてみてもBは詐欺罪となることを恐れて、「その時は返すつもりだった」と虚偽の心証を述べるだろう。
 「金を返さなかった」という事実は同じであっても、金を借りる際に欺罔の意思があったか否かによって詐欺罪の成立・不成立が分かれる。このように詐欺罪は行為者の主観面の立証が必要となり、詐欺罪での立件は捜査機関にとってやっかいな犯罪であると言われる理由がここにある。
 神世界の連中はこのように詐欺罪が成立するには欺罔行為の有無が重要なポイントとなることを心得ており、「神世界の神を信じていた。騙すつもりはなかった」と言い張れば詐欺罪として検挙・立件されない筈だともくろんだ上で一連の犯罪行為を繰り返してきた。
 しかし、元スタッフや被害者の証言、被害者の証言があり、系列が違っても多くの被害者が同じパターンで騙され金を奪われている実態を見れば、神世界側に欺罔の意思があったことは明白だ。



4、神世界事件は詐欺だけか
 以下の内容は私(fujiya)の独断と偏見に基づいた意見であり、被害者や弁護団との係わりはないものであることを最初にお断りしておく。また、下記の意見は神奈川県警に対する激励の意味を含めて述べたものである。

 犯罪の内容に応じて捜査方法はいろいろあるだろうが、詐欺罪に相当する犯罪では被疑者を直接問い詰めても欺罔の意思があったことを自白する可能性は低い。「神世界関係者を詐欺罪で検挙する」という”正面突破”だけが神世界の犯罪を解明する手段ではない。彼らが犯した数々の法律違反を調べ上げ、その過程で詐欺罪に該当する証拠がないかを徹底して調べ上げて行くのも一つの方法だ。叩けばホコリが出る団体が神世界であり、それができるのは警察しかない。
 数百人とも言われている神世界被害者が受けた被害実態をつぶさに調べ、多くの被害事例から神世界犯罪の実態に迫り、各種法律に違反している部分がないかを調べるのは警察の仕事だ。市価150円程度の水を数千円、場合によっては1万円を超える価格で客に売る行為は明らかな公序良俗違反だ。被害者の中には明らかに恐喝と思われる脅しを受けた被害者も多い。「御霊光を浴びれば病気が治る」と誤信させられた結果、医療機関での手当てが遅れ病状が悪化した人もいる。虚言によって他人に傷害を与えた者が処罰されなくていいのか? 車を運転中、誤って他人を傷つけても過失傷害罪に問われるのに、「御霊光で病気が治る」と欺き、他人に傷害を与えた者に対する処罰はないのか?

 私のところでは約250名ほどの神世界被害者の方とメールで連絡が取れている。神世界被害の実態を聞き取るには何度もメールを繰り返す必要があり、被害を受けたことで精神的に落ち込んでいる人を勇気づけるためには、その後も丁寧なメールのやり取りが必要となる。一人当たり数百通、数千通のメールのやり取りになっている被害者も多い。一人一人が受けた被害の深刻さを知るためには通り一遍のやり取りで可能となるものではない。
 「fujiyaは神世界事件を追及しているだけなのでこうした活動が可能なのだ」と言われるかもしれないが、私は警察官ではなく一民間人でしかない。捜査権限を持たない民間人の私でも、多くの神世界事件被害者と密に連絡を取ることで事件の真相にある程度まで迫ることができたと思っている。神世界事件捜査本部が80名以上の刑事を投入し、2年以上にわたって警察権力という特殊な力を使った捜査を続ければ、これだけ被害が深刻な神世界事件の真相を突き止めることができない筈はない。神世界事件解明のためにはもう少しきめ細かな被害者からの聴き取りが必要なのではないか。

 神世界は最終的には霊感商法という詐欺罪で裁かれねばならないと思うが、そこに至る方法は知恵を絞ればいろいろある。「素人になにが分かるか」と一笑に付されるかもしれないが、警察の捜査は「捜査方針」という名の”縛り”がかかってしまうと、それ以外の方向に目を向けなくなり、捜査方針から外れた犯罪構成要件を見落としてしまうこともある。これだけ大きな被害が出ていることが分かっていながら、2年という時間をかけても関係者の逮捕に至らないのは、捜査方針に問題があったと見るべきではないのか。
 これまで多くの冤(えん)罪が生まれた背景に何があるかと言えば、「予断に基づく捜査」が冤罪を生んできた。神世界事件を単純な詐欺事犯と捉え、「予断に基づく捜査」が行われる限り、神世界事件のように巧みな心理操作を伴う新たな犯罪には太刀打ちできない。犯罪は刻々と進化しているのに警察の捜査が「従来の型」にはまった捜査をしていたのでは進化する犯罪に打ち勝つことは不可能だ。
 罪のない人に罪をかぶせる冤罪もあってはならないが、現実に数百人もの被害者が発生している犯罪が野放しにされるようなこともあってはならない。神世界が未だに営業を続けていることは、社会にとって深刻で大きな問題だ。長期化する捜査に神世界被害者の多くは疲弊し、諦めの心境となっている者もいる。捜査の長期化は神世界を喜ばせるだけでしかない。神世界は、「もう警察は関係者の逮捕はできまい」と高をくくっており、神世界は活動を再開させている。いまこうしている間にも神世界は各地で人を集め、新たな被害者が出続けている。
 神世界の犯罪が何ら処罰を受けないことが明らかとなれば、今後同種の犯罪は雨後のタケノコのように増加するだろう。日本は霊感商法やり放題の国となってしまい、市民の安全は更に脅かされることとなる。神世界による犯罪を明確に解明し、きちっと処罰することは、霊感商法が割に合わない犯罪であることを広く社会に知らしめ、新たな犯罪を抑止する力となる。
 警察・検察・司法は市民の安全を守るための機関だ。断じて、神世界事件をうやむやに処理してはならない。



5、警察の論理と民意
 告訴状を受け取った神奈川県警は、15名の被害者が神世界幹部15名を告訴するに至った心情を今一度よく考えてほしい。告訴状に名を連ねるということは大変な勇気が必要とされる行為であり、15名の被害者は、よもや自分が刑事事件の告訴人になるなどとは思っていなかった人達だ。
 警察の捜査が順調に進展し、神世界関係者の逮捕・立件が行われていれば今回のように被害者自らが神世界幹部を告訴する必要はなかったのであり、捜査が進展しない状況を打破するためには被害者自らが告訴に踏み切らざるを得なかったのである。15名の神世界幹部に対し、「被告訴人らの行為は、以下に述べるとおり、刑法246条1項の詐欺罪に該当すると思料するので、厳重に処罰されたくここに告訴する」とした告訴状の趣旨に込められた告訴人の思いを重く受けとめてほしい。告訴人となる決意を固めていただいた15名の被害者の方の勇気には私からも敬意を表する。

 警察としては捜査本部が決めた捜査方針が最優先されるのだろう。捜査方針が事件解決につながり、かつ民意に沿うものであればそれで結構なのだが、これだけ時間をかけても実効が上がらない捜査方針は見直しを図るべきではないのか。今回の告訴状提出を受け、捜査方針に問題点がなかったかを点検していただきたい。
 犯罪を取り締まることができるのは警察しかない。民間人にはその権限は与えられていない。15名の被害者が提出した告訴状を熟読し、告訴を正式に受理し地検に送検してほしい。地検が起訴しなかった場合は検察審査会の議決を得て起訴に持ち込むことも織り込み済みだ。

 神奈川県警は過去にもいろいろと問題があり、最近も不正経理問題が取りざたされていたが、どの問題を見ても民意を逆撫でするものでしかない。民意を逆撫でする警察であっては捜査に対する一般人の捜査協力も十分得られず、犯罪の抑止・検挙はおぼつかない。
 平成22年1月15日に神奈川県警本部において行われた定例警察署長会議の席上、渡辺巧警察本部長は、神奈川県警が組織をあげて取り組むべき基本的運営方針として、「犯罪の抑止・検挙、交通事故防止などに関する実績の底上げの推進」を上げている。
 「底上げ」をするには従来と同じことをしていたのではダメだ。神世界事件捜査を「底上げ」し、実効を上げる方策を講じてほしい。
 犯罪の抑止に最も効果があるのは犯罪の検挙であることは言うまでもない。それが警察本来の仕事であり、民意を得る最善の方法だ。



6、横浜地検にも告訴状提出
 神奈川県警に告訴状を提出した約4カ月後の平成22年6月16日(水)、神世界事件被害者15名は(有)神世界幹部15名を詐欺の疑いで横浜地検にも刑事告訴した。
 横浜地検は告訴に基づき、積極的な捜査を開始した模様である。



戻る