神世界による組織的詐欺事件の控訴審判決に関する声明
−斉藤亨被告人の実刑判決を受けて−

平成24年12月6日


弁護士会館にて行われた記者会見(2012年12月6日)
東京都千代田区麹町4丁目7番地
麹町パークサイドビル3階
リンク総合法律事務所
TEL 03-3515-6681
FAX 03-3515-6682
神世界被害対策弁護団
団 長 弁護士 紀 藤 正 樹
事務局長 弁護士 荻 上 守 生
外28名  


 当弁護団は、平成19年12月、斉藤亨を頂点とする神世界グループによる組織的詐欺事件の被害者らの被害回復等を目的として結成された弁護団です。当弁護団は、この間6年にわたり、「ヒーリング」「御祈願」「御霊光」などの効能をうたって組織的詐欺を続けてきた神世界グループによる被害者の救済活動を行ってきました。

 そして本日、丸6年を経て、ようやく東京高等裁判所第805号法廷において、神世界の教祖である斉藤亨被告人に対する組織的詐欺被告事件の控訴審判決期日が開かれ、同被告人に対し、懲役5年の第一審の実刑判決がほぼ維持され、懲役4年6月の実刑判決が出され、組織的詐欺が有罪とされたことは、非常に大きな意義があると考えています。

 同判決は、「神世界事件」の被害の実態、すなわち教祖の指示で、宗教行為に仮託してなされた組織的詐欺による金銭収奪の悪質性、死者すら出している悪質な団体であるという真実を直視し、第一審判決後に、神世界側が、弁護団で受任している被害者に対し被害弁償(130名約5億1500万円)を行ったことなどを考慮しても、なお神世界の被害総額が約180億円にも及び、全ての被害弁償額を考慮しても全体の被害額のわずか7%(被害者数では6%)に満たず、今なお、神世界側の推計を前提としても4441人もの被害者の救済が行われていおらず、泣き寝入りを強いられ、他方、斉藤亨被告人らは「違法かつ不当な収益」を確保しているなどの被害実態も十分考慮したうえで、実刑判決を選択し減刑をほとんどしなかったのであり、当然のこととして評価できます。
加えて高裁判決においても、教祖の指示で宗教行為に仮託してなされた金銭収奪行為が組織的詐欺行為にあたるとの認定が維持されており、この点は統一協会(世界基督教統一神霊協会)に代表されるいわゆる霊感商法による被害が絶えない中、画期的な意義を有するものと評価できます。

 さらに同判決は、宗教団体の教祖が、宗教活動について詐欺にあたることを自白した、わが国における戦後の宗教史上初の事件です。神奈川県警の現場の警察官、立件に漕ぎ着けた横浜地検の検事が、被害者の悲痛な叫びに真摯に耳を傾け、慎重かつ粘り強く捜査を継続され、教祖斉藤亨をはじめとする幹部らの組織的詐欺による有罪判決を得るまでにご尽力されたことについて、改めて敬意を表しますし、このご尽力が、深刻な霊感商法による詐欺被害の救済に繋がったことについて、捜査機関においては、良き先例として、今後は、積極的に悪質な霊感商法の摘発を進めていただきたいと願う次第です。

 もっとも、この「神世界事件」では、大きな課題も残りました。
日本社会においては、未だに統一協会のみならず、「ヒーリング」「占い」「鑑定」「自己啓発セミナー」などを手段とした霊感商法やスピリチュアル商法を行う団体、個人が跳梁跋扈しており、深刻な被害が続発しておりますが、これらの霊感商法、スピリチュアル商法に対する捜査機関による詐欺罪、組織的詐欺罪による立件は、現状においても抑制的に過ぎる言わざるを得ません。

 宗教やスピリチュアルなどを理由に、捜査機関の詐欺罪、組織的詐欺罪による立件を躊躇する姿勢が、霊感商法、スピリチュアル商法による被害を結果的に放置し続けることになっております。現に、「神世界事件」においても、平成22年3月までの横浜地検の抑制的な姿勢が、「神世界事件」の立件を遅らせ、立件範囲の縮小に繋がり、深刻な被害実態に見合った事件化と判決における量刑という意味で、不十分な結果となったことは否定できません。

 本日、教祖斉藤亨被告人は実刑判決となったものの、被害総額約180億円、医療機会の遅延により幼児2名、成人2名の死者を出している極めて悪質な団体の被害実態に比して不当に軽い判決と言わざるを得ず、刑事責任を問われたサロンの経営者は一部に留まり責任を問われた経営者らにも執行猶予判決が言い渡されたのみです。
 しかも斉藤亨他被告人を含めた神世界の幹部だった被告人らは、自らに神霊能力があったと主張して確定的故意を否定し、未必的故意であったなどと強弁し、さらにはサロン経営者の一部は活動を再開させているとの情報も伝わってきており、真に反省をしているとは到底考えられず、霊感商法を再開する危険性が高いと思われます。
 当弁護団としては、引き続き神世界の活動を注視して警戒し続けるともに、これまでに被害回復ができたのは約12億円と被害総額のわずか7%(被害者数では6%)に満たず、なお4400人以上の被害者の存在がうかがえることから、引き続き被害者の方々の相談窓口を設けて被害回復に努めて参りたいと考えております。

以上



戻る