神世界による組織的詐欺事件の判決に関する声明

平成24年5月1日


横浜市開港記念会館にて行われた記者会見(2012年5月1日)
東京都千代田区麹町4丁目7番地
麹町パークサイドビル3階
リンク総合法律事務所
TEL 03-3515-6681
FAX 03-3515-6682
神世界被害対策弁護団
団 長 弁護士 紀 藤 正 樹
事務局長 弁護士 荻 上 守 生
外28名  


 当弁護団は、斉藤亨を頂点とする神世界グループによる組織的詐欺事件の被害者らの被害回復等を目的として結成された弁護団です。
 本日午後1時30分、横浜地方裁判所第101号法廷において、神世界の教祖である斉藤亨及び神世界傘下のえんとらんすグループのトップで会主という立場にある佐野孝他幹部2名に対する組織的詐欺被告事件の判決宣告期日が開かれ、斉藤亨被告人に対し懲役5年の実刑、佐野孝被告人に対し懲役3年執行猶予5年の刑、幹部である淺原夫妻に対しては懲役2年6月執行猶予4年の刑がそれぞれ言い渡されました。
 この判決は、教祖の指示で宗教行為に仮託してなされた金銭収奪行為が組織的詐欺行為にあたることを認定したものであり、この点は統一協会(世界基督教統一神霊協会)に代表されるいわゆる霊感商法による被害が絶えない中、画期的な意義を有するものと評価できます。また本件は、宗教団体の教祖が、宗教活動について詐欺にあたることを認めた、わが国における戦後の宗教史上初の事件であると思われます。
 被害者の悲痛な叫びに真摯に耳を傾け、慎重かつ粘り強く捜査を継続され、教祖斉藤亨をはじめとする幹部らの組織的詐欺による有罪判決を得るまでにご尽力された捜査機関の方々には、改めて敬意を表します。
 もっとも、今回の判決の量刑は、被害実態に比べれば軽過ぎると言わざるを得ず、この点は容認できません。当弁護団は、検察官に対しては、速やかに控訴するよう求めるとともに、控訴審では、すべての被告人に対して本日言い渡された刑を上回る実刑判決が宣告されるべきであると考えます。
 以下、その理由を述べます。

 本件は、神世界グループの幹部である被告人らが、「癒し」、あるいは、「ヒーリング」という耳当たりのいい宣伝文句により一般市民を「ヒーリングサロン」などと称する活動拠点に勧誘し、真実は宗教団体である神世界の資金獲得を目的としているにもかかわらず、その目的及び宗教団体であることを殊更に隠し、被害者の抱える悩みや問題の原因が、体に溜まっている毒素や先祖の因縁であって、御霊光・御祈願をしなければ悩みや問題が解決しないなどと虚偽の事実を断定的に述べて、被害者らの不安感・恐怖感を煽り、御祈願や御礼など様々な名目で多額の金銭を騙し取っていたという事案です。その被害者は多数に上り、被害金額は、現在判明しているだけでも合計約180億円という巨額のものとなっています。
 神世界の教祖である斉藤亨やえんとらんすグループのトップであり会主と呼ばれていた佐野孝の責任が極めて重大であることは当然ですが、淺原史利も淺原嘉子も、それぞれ有限会社えんとらんすアカサカの代表取締役や取締役、えんとらんすグループ内でNo.2の「教会長」などとして、極めて重要な役割を担っていた者であり、とりわけ淺原史利は、本件の被害者に対して直接、その悩みにつけ込んで虚偽の事実を述べ、高額な金員を支払わせた者ですから、その責任もやはり重大です。

 これに対し、横浜地裁は、神世界グループが解散を宣言し、会社を清算中であり再犯可能性が低いこと、一部の被害者との間で示談が成立していること、刑事事件の被害者以外の被害者にも被害弁償をしていること、立件された被害金額が高額ではないこと等を被告人らに有利な事情として挙げ、検察官の求刑に比べて格段に軽い、上記内容の刑を言い渡しました。
 しかしながら、神世界グループが解散を宣言し、傘下の各会社も清算中と称しているとはいえ、被告人らの供述内容や被告人らの公判傍聴に動員されている信者の態度、同グループ内の一部の会社が解散発表前に相次いで商号変更をしていた事実等からすると、同グループは従前どおりの活動の継続を志向していることが窺われ、再犯のおそれは極めて大きいと言わざるを得ません。そもそも、業務として組織的詐欺行為に及んでいた法人組織を解散するのは当然であって、これを被告人に有利な事情として斟酌するべきではありません。
 また、約6億円の被害弁償が実現し、今後も約9300万円の被害弁償が見込まれているとはいえ、少なくとも180億円を超える被害全体と比較すれば、これらの合計額は4%にも満たないものです。大半の被害について被害弁償が実現していないのですから、組織的詐欺による違法収益はいまだ被告人らの懐に留まっているものと評価するべきです。  さらに、神世界グループによる活動は、単に経済的被害をもたらしただけでなく、適切な医療を受ける機会をも失わせるものであり、その前身である千手観音教会の頃から明らかになっているだけでも幼児2名、成人2名の尊い命が失われ、佐野孝の実子で斉藤亨の養子に重度の後遺障害を残すなど、人の生命、身体への重大な侵害をも伴い、人生そのものを狂わせてしまうものでした。その手口も、藁にもすがりたいほどの悩みを抱えた被害者に対して宗教性を秘匿して言葉巧みに近づき、その悩みにつけ込み利用していたもので極めて悪質です。
 これらの事情からすれば、会社の解散や被害弁償、立件された金額が高額ではないことを理由に、被告人らの刑事責任が軽減されるべきではないことは明らかです。このような極めて悪質な組織的詐欺事件において、組織的詐欺行為によって得た巨額の資金によって、ごく一部の被害者に対してなされたにすぎない被害弁償を過度に評価して、教祖である斉藤亨の刑を大幅に軽減することやえんとらんすグループのトップである佐野孝、重大な役割を果たした幹部である淺原史利、嘉子に対し、執行猶予を付することは、深刻な被害実態への配慮が極めて不十分であるだけでなく、組織的詐欺罪が創設された趣旨をも没却する上、統一協会(世界基督教統一神霊協会)をはじめとする同種の霊感商法を行っている団体の違法行為に対する抑止的効果も薄れさせ、あるいはかえって助長することにつながるのではないかという懸念も払拭できません。

 以上のとおり、神世界グループによる組織的詐欺行為の悪質さ、被害実態の深刻さ、各被告人の果たした役割や責任の重さからすれば、本日被告人らに言い渡された刑はあまりに軽すぎると言わざるを得ず、控訴審においてより重い実刑判決が宣告されるべきであると考えます。

以上



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