SAPIO 2012年4月25日号
マインドコントロールの実際は、いったいどのようなものなのか。『ついていったら、こうなった』(彩図社刊)など、潜入ルポの著書のある評論家の多田文明氏が明らかにする。
ちょうど今、組織的詐欺で公判中の「神世界」グループが、霊感商法的な手法で多額のカネを集めたことで問題になっている。2011年の摘発前、多額の金を使わされたという女性の姉から相談を受け、私も同グループが運営していたヒーリングサロンに、潜入したことがある。そこで行なわれていたのは、まさにマインドコントロールだった。
“女性の美を実現する”といった謳い文句のこのヒーリングサロンは、紹介限定でしか通えない。私は腸の調子が悪いという設定にして、女性の紹介でサロンに乗りこんだ。
現場はマンションの一室で、20畳ほどある広い部屋に通された。内装は清潔感があり、間接照明が置いてあるなど、リラックスできる空間を演出している。
サロンを仕切っている店長風の女性とアシスタント風の女性の2人が出てきた。
アシスタント風の女性に椅子に座らされると、コースの説明を受けた。3000円から1万円まであるという。何が違うのかというと、「運のつき方が違う」とのことだった。
5000円コースを選択すると、回転する椅子に座らされた。目を閉じて絶対に開けるなと言われたが、薄目を開けて見ていると、回る椅子で私をクルクル回しながら、手をかざすような動きをする。
それが20?30分ほどあったあと、カウンセリングに移った。これが、マインドコントロールのポイントになる。
これで運がつくというのはどういうことか、と聞くと、「この後あなたは普通なら乗り過ごすバスに乗れるし、駅についた瞬間に電車に乗れるようになる。いいことが、起こり始める」というのだ。
続けて、彼女が「ただし」と言う。「今のは5000円分の運しかついていないので、次回また来てください。来ないと今日のヒーリングが無駄になってしまう」などと語るのだ。 件の妹は1年半このサロンに通わされて、10万円の白いお守り袋を買うなど100万円ほどを支払わされた。そのお守り袋は印籠のようになっていて、絶対に開けてはいけないと言われたというのである。私が開けて中を見てみると藁半紙の真ん中に筆ペンで「力」とだけ書かれてあった。
ちょうど来た電車に乗れるような些細な出来事は普通に生活していれば、よくあることだ。こうしたことで客の信頼を得ていく。私の場合は「腸の調子が悪い」ということにしたが、がんなどの病気や、深刻な悩みを抱えている人は、「何度も通わないと、あなたの病気は治らないどころか悪化する」などと言われれば、少しでも悪くなった場合、「あのサロンに行かなかったから悪化したのかも」と思ってしまってもおかしくはない。
また、インターネットで漢方茶を格安で提供していたところに資料請求してみると、「健康診断を受けませんか」とパンフレットが送られてきたことがある。“健康診断”に行くと、おそらく医者ではない人が、「どこか身体に悪いところがあるでしょう?」と言うのだ。こうなれば、あとは不安を煽ってカネを引き出す??というお決まりのコースである。
ここ数年の傾向としては、宗教にしても悪徳商法にしても、以前のように大人数の場所に連れてきて高揚感の中で取り込むというよりも、少人数で不安を煽り、人の心につけいるというパターンが多くなっている。「いかにも怪しい」というケースは少ないので、注意していただきたい。