この講演の原文は下記にあります。
http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~JFOA/douyuu/321.htm

この原文からタイトルなどを取り除き、講演内容を会主講話4,452文字とほぼ同じ文字数の付近でカットしてから文末が「です。」で終わる回数を調べた。

このようにして調べた結果、下記講演文書中文末が「です。」で終わっている回数は3回であった(文字数、4,550文字)。



同友会の事務局から、今日の総会の記念に売上税の話をしてくれないかという要請がございましたのですが、税理士というのは税金のことについて何でも詳しいわげではございませんで、数ある税理士それぞれにある程度の専門分野がございます。私の場合はどちらかというと、所得税、資産税畑ということになっているものですから、今度のような消費税の話はあんまり得意ではありませんで、皆様方の御期待に沿えるかどうか自信はないのですけれども、一時間ばかり時間をいただいて、お話し申し上げたいと思います。

皆様方の関心は専ら売上税にあると思います。その問題で、毎日全国各地で大騒ぎになっているわけですが、売上税について御説明する前にやはり、今回の抜本的税制改革の背景なり、全体的な内容の概略をお話しておいた方がよいのかなということで、お手元に差し上げております要約を作ってみたわけでございます。

今回の税制改正は、抜本的税制改革とされておりますが、従来からいわれているように、シャウプ勧告以来の現行の税制についてその後の世の中の移り変わりで非常にゆがみが出てきている、そのひずみを直して行こうということでごさいます。そして、公平、公正、簡素、選択、活力といったことがその基本理念とされております。

そういったことが背景にありまして、一昨年の9月に政府の税制調査会に内閣総理大臣から抜本的改正についての諮問があり、その後検討が続きまして、昨年の10月28日に抜本的改革に関する答申が提出されました。自民党の税制調査会でも、その内容についてさらに具体的な詰めがなされまして、12月5日に基本方針が決定致しました。所得税減税、法人税減税を思い切ってやろうということでございます。さらに、それの見返りといいますか、増減税同額ということで、マル優の廃止と売上税の創設も決定されました。具体的に62年度の改正の中でどのような形で盛り込むかというのが、その後それぞれ検討されまして、12月23日に政府税制調査会から答申が出され、自民党の方では税制改正大綱を決めたということでございます。それを受けて、今年になって1月16日に、政府の税制改正要綱が決まりました。さらに2月3日に、売上税法案と所得税法等の一部を改正する法律案というのが提出され、10日には売上税から所得税、法人税、措置法まで全部、一括して一つの法案にまとめた施行法が出されました。それに続いて、今のところはとにかく売上税の中身が65条しかないのに、政令委任が百いくつもあるので、野党はその政令の中身が分からなければ審議に応じられないということで、御承知のように国会がストップしている状況にございます。

 まず最初は、とにかく選挙の時の公約に従って、所得税、住民税、そして法人税を大幅に減税しようということでございます。所得税、住民税の減税の中身は、段階を少なくして税率を引下げるということでございます。現在は、所得税と住民税を合わせますと、最高税率が所得税70、住民税18となっていますので、最高では88%まで納めなければならないわけですが、それを思い切って下げよう、もちろん、下の方の中堅及び低所得者層に及ぼす税率もしばらくの間は15%ぐらいの税率が続くようにしようということで、税率を改めることになっております。

 これを2年がかりでやろうということでございまして実現した場合には来年になりますと、最高税率が所得税50、住民税15、合わせて65ぐらいになるということでございます。それでも、諸外国に比べますと、先進国の中では最高税率の水準は一番高いというのは変わりません。アメリカでは最高税率が地方税を含めても38、イギリス60、フランス58、西ドイツ56ということになっております。アメリカは御承知のようにレーガン減税の結果、低い水準になっているわげでございます。先進諸国に比べれば未だ高い税率ですが、日本も65ぐらいに下げていこうということで、そのために2兆7千億円の財源が必要となります。

ほかに、配偶者特別控除が新しくできるということがあります。配偶者控除のほかに、平年度15万円、今年度は4分の3の11万2千5百円の配偶者特別控除が設けられるということになっております。それからもう一つは、厚生年金なり共済年金を貰っておられる方の公的年金課税が来年からかなり変わってきます。現在は、公的年金は給与所得ということで、給与のある方はそれと合算した上で給与として税金がかかってくるということになっているのですが、来年からは公的年金だけですけれども、雑所得として年金独自に控除しようということでございます。全般的には、年金についての税金はかなり安くなります。特に、今までは年金を貰いながら第二の人生ということでどこかにお勤めになっているような方については、かなり税金が安くなるということが考えられます。

それから、法人税率の引下げがあります。これは3年がかりで、法人税率を現在の43.3%から37.5%まで持っていく、さらに中小法人の年8百万円までの軽減税率についても31%から28%まで引下げるといったことを内容とした、法人税の減税が大体1兆8千億円ぐらいになります。

 合わせますと、所得税、住民税、法人税で4兆5千億円ぐらいの減税をやろうということになっております。

それに対して増税の方は、マル優、郵便貯金の非課税制度を、65歳以上の老人の方、母子家庭の方、それから身体障害者の方、こういう方々に限定するということがございます。普通の一般の人については、今年の10月1日からですけれども、マル優とか郵便貯金の非課税制度は適用されないということになります。10月1日以降は、一律20%の源泉分離課税ということで、20%の中身は15%が国税で、5%が地方税でございます。現在は、マル優を使い切った人は、20%の総合課税と35%の分離課税の選択ということになっているんですが、選択ではなくてとにかく2割の分離課税ということになるわけです。従来、35%の分離課税を選択していた人は、10月1日からは15%安くなる形になります。

これと関連しまして、従来から節税商品といわれている、金貯蓄口座、一時払い養老保険、定期積金、相互掛金とかいったものについても、すべて20%分離課税、利子並に扱うということになっております。

また、10月1日から今マル優になっているものがどういう扱いになるかと申しますと、例えば昨年の12月に1年間の定期預金にしたようなものについては、期間按分するという経過措置になっておりまして、10月1日以降の期間に対応する分については20%の源泉分離課税、それ以前の分については従来どおりですから、マル優のものについては税金がかからないということになっております。ただし、期間按分を日数でやるのか、あるいは月数で按分するのかについては、今の法律の段階でははっきりしておりませんで、おそらく政令が出される段階ではっきりすることになると思われます。マル優がどうしてこのように厳しくなるのかという背景には色々あるんですけれども、要するに一つは減税財源ということで、マル優廃止によって1兆6千億円ぐらいの増収が図れるということです。

それから、最後に問題の売上税の導入をやって、平年度で2兆9千億円の税収が上がるという計算になりまして、マル優の廃止等と合わせますと4兆5千億円で、増減税同額ということでございます。

ですから、今世の中では売上税の導入の問題が色々いわれているわけですけれども、税制改正の中身としては、御説明申し上げました、四つの柱があるということでございます。

売上税の導入の背景といいますか、なぜ今この時期に売上税を導入するかという点について申し上げますと、やはり日本の税体系が累年、段々直接税中心主義になってきておりまして、特に先ほどいいましたように、所得税の税率にしろ、法人税の税率にしろ、国際的にみますと、日本だけが非常に高い水準になっているということですから、どうしても直接税の比重がどんどん上がってきているということがあります。

それから、物品税というのは個別消費税で現在あるわけですけれども、この中身でも、かかっているものとかかっていないものとの説明がうまくできないものがある、例えば毛皮については物品税がかかるけれども、高級織物は非課税になっているということ、また、ケヤキの箪笥には物品税がかかるけれども、キリの箪笥にはかからないとか、問接消費税の中でもなかなか説明のし難いものが出てきているということがございます。それから、国際間でも日本は特定の物品だけに税金がかかるということで批判を受けている面もあります。

そういった間接税自体にも色々な問題があることから、この際思い切って売上税を導入する、もちろんそれによって、先ほど申し上げました所得税と法人税の減税の財源に充てることができるではないか、そういうことが売上税導入の背景になっているわけです。

そこで、具体的に売上税とは一体どういう税金なのかということになるわけですが、これは今盛んに新聞に出てきます、毎日テレビでもやってます、さらに政府というか自民党は「Q&A」というのを出してものすごいベストセラーになったとか、社会党も「究極の大増税」というようなことでこれも大変なベストセラーになっております、毎日の新聞でも売上税シリーズみたいなことで、日本経済新聞あたりにも「売上税の実務」が連載されております。他の新聞でもかなり売上税問題について取り上げておりますので、皆様方もおそらく売上税というのはこういうものだというアウトラインを描いておられるだろうと思いますから、私の今日の話をお聞きになっても、なんだそんなこともう知っているわいということもあるのかもしれません。もっと詳しいのが聞きたかったということかもしれませんが、これがまた、先ほどの国会審議とも絡みまして、本当にここが知りたいというところについては不透明な分野がかなりございます。今間違いなく言い切れるのは、法律に書いてあることだけになります。売上税法案は、先ほど申し上げましたように、2月3日に国会に提案されておりますから、その中に書いてあることは、自信を持って言えるんですが、百いくつも政令がある、さらに場合によったら国税庁の取扱通達で解決が図られるような問題もかなり含んでいるんだろうと思いますから、その辺になりますと、話す方もなかなかはっきりしていないのが実情でございます。皆様方もなんとなくもやもやした感じがあるのかもしれませんが、そういう状況を前提として、私がお話し申し上げるのは、専ら現在国会に提案されておりますところの法律案に盛られている内容を中心としてお話を進めていくということでございます。

先ず第一番目に、売上税はどういう人にかかるか、どういう物にかかるかということです、「国内で行われる物品の販売や貸付け、サービスの提供」ということですが、もっと詳しくいいますと、「事業として有償で行われる資産の譲渡、貸付け、役務の提供」ということになります。