この講演の原文は下記にあります。
http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~JFOA/douyuu/379.htm

この原文からタイトルなどを取り除き、講演内容を会主講話4,452文字とほぼ同じ文字数の付近でカットしてから文末が「です。」で終わる回数を調べた。

このようにして調べた結果、下記講演文書中文末が「です。」で終わっている回数は15回であった(文字数、4,458文字)。



御紹介いただきました美濃地です。私は大正14年生れで、昭和24年に東京大学を卒業しました。頴川会長の少し先輩に当たります。その年、第1回の人事院公務員試験に合格し林野庁に入りました。林野庁では青森営林局、札幌営林局等に転勤し、昭和32年より2年間国有林の造林係長をやりました。当時は国有林、民有林ともに拡大造林を推進した時代でした。農林業、特に造林事業には大変な労力を必要としましたので、これを如何に効率をよくし、省カ化出来ないものかと考えていました。

そのような昭和38年、青森営林局管内のむつ営林署でポット造林を行い、27年を経過して現地へ行ってみたところ、大変によい成績を示しており、私にとってはポット造林の実績に大いに自信を持った次第です。

昭和45年に島根県に帰り、副知事を務めるかたわら、島根県林業公社の理事長に就任し、特に造林事業や、育苗事業になお省力の必要性を痛感しました、当時スギの価格がヒノキに比べ大きく低下していたこともあり、林業公社への造林希望は8割方がヒノキでした。ところが、ヒノキ苗は育苗の段階で非常に軟弱な、徒長苗が生産されており、造林地では3分の2程度も枯損した例がありました。

そのような折、たまたま、筑波の「科学万博」でトマト1株から1万3千個の実をつける水気耕栽培の実績が展示されました。その技術を用いて、ヒノキの軟弱な苗木を正常な根系に修正できないかと思い付き、ポットを使ってスギ、ヒノキの水気耕栽培を行ってみました。

スギの水気耕では成長が早く、1年間の成長の期間に10個から12個の偽年輪が出来ていることを発見しました。一方、植栽後3年のポット苗とほぼ同直径の京都の北山スギ丸太は、17、8個の年輪があります(資料1(略))、このように、私が行った実験では、3年で18年の北山スギとほぼ同じ太さの造林木が作れました。丁度その時、NHKが取材に参り、スギの水気耕栽培について中国、四国地方で放映し大変反響を呼びました。このビデオは講演終了後御覧いただく予定です。

一方ヒノキ苗の水気耕については、水溶液との相性が良くないせいでしょうか、スギのように当初からは成功せずに、2年間おくれてやっと育成に一応の目途がつき、現在ではスギと同床で育てられていますが、偽年輪の確認はこれからとなっています。

NHKの放送時、島根県林業試験場にスギの強度測定を依頼実行したところ、建築基準法で定められた圧縮強度の、cm当たり60sを超える180sの強度がありました。これに興味をもって省力林業研究所を設立し、県林業公社退職後の仕事としています。

ただ、技術は未だ完成したわけではありませんので、林野庁でも、また島根県でもマユツバものでないかと100%の信用を得ていませんが、平成3年の夏に植付けた水気耕栽培のポット苗木が、満5年余経た今秋、樹高が7m、胸高直径で14p弱に達しています。平成6年地上3.2mの高さの位置では5pの直径に太っていました。

樹高3.2mは定植後3年目に到達する高さですから、あと5年たてば10.5p角の柱材が確実にとれるのではないかと考えられます。10.5p角の柱材は、建築基準法で約7tの強度が必要だということですので、強度試験を進めながら適確な柱がとれる日を首を長くして待っています。

私は山林地主の子供に生れたこともあり、因果な研究を続けていますが、本日御出席の皆様方も、いろいろな面でのお悩みをお持ちかと思いますので、私としては、この水気耕の技術を確立し、さらに発展させようという覚悟でおります。

今年の2月には5年間の審査が終わり、我が国での特許がおり、さらに国外での特許をとるべく申請中です。

さて、昨年、林業同友会の例会講演で、今後の育種の方向等について、林木育種場の喜夛所長がお話しされていますので、その骨子に則しながらお話をさせていただきます。

水気耕栽培は農業で行われている技術で、トマト、軟弱野菜やカイワレ大根等の生産によく利用されています。私どもがはじめて林木の水気耕栽培に着手し始めた平成元年の8年前に、現在国立林業試験場の藤森環境育林部長が、関西地方のスギ一等地の生産保育管理モデル成長曲線(85年間)のプロットを樹高、胸高直径について発表されました。

このグラフと平成3年7月に植えた島根県緑化センターの成長過程を比較しますと、スギ水気耕ポットの樹高、胸高直径の成長は、5年にもかかわらず抜群の急成長を今日まで続けています。

3ヵ月間水気耕栽培を行うと太い根が沢山出て、植栽後の成長はよい結果につながっています。樹高では、関西一等地の苗木が13年かかって7mに達するところを、水気耕栽培の苗木は5年で成長していますし、胸高直径は20年分を5年間で成長しています。

直径は体積計算からみると、半径の2乗で数字が積算されるので、材積にすると、関西一等地の10年の約5.4倍弱ということになります。これについては後で申し上げますが、10年間の育種検定林での成長過程の調査では、樹高は約10%向上していたものもありましたが、材積ではあまり定かな数字が出ていないということです。

また東京都の林業試験場が、雪害に関する耐雪性の品種の保育試験を10年間にわたって行いました。その10年の結果を水気耕栽培と比較すると、21品種のうち10年間で最も成績のよかった品種の材積に対し、水気栽培で5年の材積は約4.4倍強の材積に相当します。気耕栽培のものは、強度も十分にあり、大変早い成長していることになります。

林木育種センターの喜夛前所長の話では、木材の供給需要及び労働力を考えて、育種技術に非常な期待を寄られています。

以下、喜夛前所長の講演を元に若干の私見を加えつつお話しさせていただきます。平成5年にはブラジルのリオ・デジャネイロにおける国連環境開発会議(地球サミット)が開催され、その折には、竹下総理、島根県知事が出席し情報交換が行われました。このようなことから育林技術を飛躍的に向上させないと、日本の林業、林経営は成り立っていかないのではと危惧されています。

施業コストは植生からすると、夏の気象対応で下刈りがどうしても必要です。また、日本の地形は特別に急峻で不整地があるので、これに対応した施業コストの捻出を考えざるを得ません。

成長、強度育種を前提としたスギ林施業のイメージ試案は、そのタイプを生産目標と施業の大略、品種等及び主な用途の四つに分けています。

生産目標の大径材生産は、現在の国有林の大きな課題ですが、そのためには長い生産期間がかかり、密植を行い、枝打ち、間伐、択伐等の集約的な取り扱いをせねばなりません。内装材、役物構造材に適した材を生産するためです。

今後は大径材生産と中径材生産に分け、大径材生産の施業は、生産期間をなるべく短くし、粗植、間伐等の粗放な取り扱いができる技術をつくることです。このためには、成長に優れ、早晩材の密度差の少ない品種を選び出し、合板等の高次加工材(割柱、梁等)をつくることが必要です。

現在アメリカ、カナダ等では、針葉樹合板が一般的に使用されていますが、我が国では、針葉樹の代表的なスギの強度にむらがあり、ロータリーにかかりにくく、剥きにくいといった欠点があります、今後は品種的に修正し、強度関係を調整していかねばなりません。

中径材生産は大径材生産より短い期間で、粗植、粗放な取り扱いを行い、成長、強度に優れた品種を養成し、柱等の構造材造成を目指します。

水気耕栽培によるスギ苗木は、比較的やわらかいが、建築基準法に基づく強度のある材質に成長してきており、期待がもてます。現在の調子で推移すると10.5p角の柱材は最短7〜8年で生産ができ、一般の中径材の丸太を考えると約30年で、大径材は約60年での生産が考えられればよいかと思います。将来の中径材や大径材の場合は、強度がどう変化していくか、合板等の加工材に用いる場合、剥きやすいかどうかにより方向が決まります。

胸高直径が5年で14pに達しているということは、毎年2.8pずつ太っていることですので、15年たつと約30p上の材が生産可能という見込みとなり、将来を見守っていきたいと考えています。

スギの場合、新しい品種を創るためには、精英樹の選抜育種、気象害抵抗育種、病虫害に強い抵抗性育種及び材質育種を行うことです。

さらに今後の方向としては、育種、育苗の第2世代化を目指すことですが、これは着実に育種的手法を積上げてゆく努力をつづける他ないと思います。

次が複数の特性に優れた品種の創出です。これには、いろいろな特性が考えられますが、複数の優位性をもったものを創り出すことです。
材質に優れた品種の創出は、今後の宿題です。

1.5世代育種の供給は、2世代、3世代かかって育種をせねばならない材を、なるべく早く、より良いものを創ることが必要になると思います。

森林施業と育種には、複層林に関する育種と天然林施業に関する育種、緑化樹、特用樹の育種が上げられます。さらにスギの花粉症への対応があり、最後には遺伝資源の保存といった役割を担っています。

このような状況下にあって水気耕栽培の現状は、これ等の宿題実現の可能性を大いに含んでいるといっても過言ではないと考えていますが、逆に水気耕のみによってすべての宿題を解決できるわけではないことも事実でしょう。

私どもが5年間育てた苗木の細胞調査を、林木育種センターでやっていただきました。調査の結果は、先にも述べましたように、偽年輸は3年間で約30余個ありました。

また、樹高1.2m以上の円板を持参して調査していただきましたところ、普通材では年輪幅が6年以上になると幅がせばまる傾向があるのに、この材はまだ年輪幅が縮小していないので、今後も同じような柔らかさを保てるかが問題として興味のあるところだとのお話しでした。

昨年、島根の某森林組合の苗畑では、水気耕栽培で生産した4,000本余の苗木を、5ヵ所の森林組合林で育てています。これらも、昨年植栽したものは樹高2m余に成長していて、またヒノキも1年で1.5mになったものがあります。

現在、スギha当たりの造林費は約200万円もかかるといわれています。水気耕栽培の苗であれば、今申しましたように、5年で7mに、昨年秋に植えたものでも約2m迄に成長しますので、夏の暑い時期の下刈りが省けます。造林費の約半分は下刈費ですので、約100万円の経費が節約できる計算です。

一方、ポットによる植栽ですので、時季を選ばず、活着も100%に近いので植付け本数も少なくてすみ、補植の必要もありません。このため労働力の集約的な使い方が可能となります。

島根県では、昨年より現地適用試験を始めており、7ヵ所の農林事務所で林業普及員自らが100本乃至200本を試験的に植林し、体験をしています。先に述べました森林組合と同じように、場所によって多少成長の違いはありますが、概して良好な伸長をしています。

また、播種による幼苗は、島根県でその年の秋には18p程度に成長します。この苗木を翌年3ヵ月間水気耕栽培を行い、山へ植えています、水気耕栽培へ移すのは、18pになった時点でも、10pの時点でもよいわけです。そうすると播種した翌年の春には、30p以上の苗木に育てることも可能となります。