コミットメントの実験

 ある日、一人の「交通安全協会」のボランティアが高級住宅地のある家庭を訪ねます。
 実は、「交通安全協会」のボランティアというのはウソで、実際は心理学実験を行う目的で、身分を偽って家庭を訪問しています。
 彼は、「交通安全意識の高揚のためお宅の前庭に看板を立てさせて下さい」と言い、一枚の絵を見せます。その絵には、派手で巨大な看板がその家のこぎれいな前庭のど真ん中に突っ立っている様子が描かれています。
 普通の人にはとても受け入れがたい光景です。ただ単にお願いしただけでは、もちろん100%の人がこの看板を立てることを拒否しました。

 ところが、事前にあることをしておいた家庭の何割かは、この醜い看板を立てることに同意してしまったのです。
 その事前に行われたこととは、別の「交通安全協会」のボランティアが1週間ほど前にその家を訪ね、「交通安全の運動にご賛同いただけるなら、小さなステッカーを玄関にはっていただけませんか」と依頼することでした。この申し出は、ほぼ100%の家庭で承諾されました。
 これは、「我が家は交通安全意識の高い一家である」というコミットメント(態度表明)に他なりません。そして、そのコミットメントをした家庭の何割かが、それに一貫した行動、すなわち、普通ならとても承諾できない醜い巨大な看板を「交通安全意識の高揚のため」自分の家に立てることに同意するという行動をとったのです。あくまで自分の意志と思いこんで・・・。

 さらに面白いことに、有効な事前のコミットメントは「交通安全ステッカー」に限りませんでした。
「子供達を飢餓から救うステッカー」でも「環境破壊防止ステッカー」でも、「意識の高い市民」というコミットメントをするものなら、何でも効果がありました。また、報酬が与えられない場合の方が行動の一貫性が強くなるという結果が、同種の別の実験の結果からわかっています。報酬をもらうと、「結果が出たから、もうやめ」という気持ちになりますが、報酬がない場合「これは私自身の考えでやっているのだ」と一種の”意地”で「一貫性」の自縄自縛になるのです。
 いずれにせよ、どの場合も「私は○○だから、こうしている」と、あくまで自分の意志で行動を選び取ったと信じています。


出典:一貫性とコミットメント