神世界事件の刑事裁判(吉田澄雄の公判記録)

1、吉田澄雄 初公判
吉田澄雄の初公判が行われた横浜地裁第405号法廷。(ANNテレビより)。このニュース動画はここをクリックしてください。
 神奈川県警元警視・吉田澄雄の初公判が行われる2011年11月25日(金)、午後1時10分の傍聴抽選券配布締切時刻になると、横浜地裁西側入口脇には87名の傍聴希望者が列を作った。この日の一般傍聴席の数は30席だったので、約3倍の倍率である。
 神世界事件が世間から注目される一つの要因となったのが、この吉田澄雄という当時、神奈川県警の現職警視であった男が、日本全国に多くの被害者を発生させた一大霊感商法に手を染めていたたことが発覚したことが上げられる。吉田元警視の公判はマスコミの注目度も高く、この日の公判は開廷前にテレビカメラによる法廷撮影も行われた。

公判日時:平成23年11月25日 13:30
法廷:横浜地方裁判所刑事第5部 405号法廷
事件名:平成23年(わ)第1704号
罪状:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
被告人:吉田澄雄
裁判官:佐脇有紀(単独審)

 傍聴者が開廷時刻の午後1時30分少し前に405号法廷に入ると、吉田被告はすでに被告人席に着席していた。吉田被告の服装は、薄いグレーのシャツに黒いスラックス姿だった。弁護人席を見ると、これまでに行われた神世界関係者の公判とは違い、弁護人は笠原静夫弁護士と谷地向(やちむかい)ゆかり弁護士の2名だけだった。谷地向弁護士は笠原弁護士事務所に所属する唯一の弁護士である。杉本明枝の公判では、杉本被告1名の弁護に複数の弁護士事務所から7名もの弁護士を動員していたのとは大違いである。この弁護人の陣容を見ただけで、被告側に争う意志がないであろうことが推測できた。

【弁護人席】(敬称略)

ANNテレビより

笠原静夫・谷地向ゆかり
(いずれも笠原静夫弁護士事務所)


人定質問
 佐脇有紀裁判官による人定質問に対して、吉田被告は、杉本被告と婚姻した際に、「澄雄」の読みを、「すみお」から「ゆきひろ」に変えたと説明した。職業を尋ねられると、「宗教家です」とはっきりした口調で答えた。

罪状認否
 吉田被告は、検察が被告を組織犯罪処罰法違反(犯人隠避)の罪で起訴したことについて、「間違いありません」と答え、逮捕状が出ていた斉藤享被告の逃亡に手を貸した犯人隠避の罪を認めた。

検察側主張
 検察が起訴状朗読や冒頭陳述で論告した概要は次のようなものだった。
●吉田被告は神世界関係者と共謀し、神世界を統括する教祖・斉藤亨(54)に組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕状が出ているのを知りながら、斉藤亨をかくまう目的で、2011年8月18日(木)から9月12日(月)までの間、東京都台東区の旅館や岐阜県内の旅館に偽名を使って斉藤と供に宿泊するなどした。
●被告人の行為によって、事件は早期の真相解明を妨げられた。刑事司法を害した被告の行為は重大である。
●被告人は犯人隠避の主導的役割を果たした。教祖・斉藤亨を逃亡させた今回の犯罪は、被告人の発案によって積極的に犯行が行われており、元警察官である被告人抜きには考えられない計画的且つ巧妙なものである。
●神世界事件は社会的にも重大かつ悪質な組織的詐欺であり、(有)神世界の最高責任者であった斉藤亨をかくまうなど、被告人が犯した犯罪は警察官に対する信用を大きく損なうものである。
●被告人が犯した犯人隠避という犯罪は、反復継続しておこなわれることが多い組織的犯罪がおこなわれた場合に、根絶のための団体の実態解明・事案の真相解明を著しく困難にする上、更に犯罪が継続される温床となり、違法性が高い。
●被告人は、県警を懲戒免職となった後も、県警在職時の名刺を神世界の顧客に示し、警視としてカルト集団等の取り締まりに当たっていた経歴を誇示した上で、「E2はその様な集団とは異なる」などと偽証し、客の勧誘をしていた。
●被告人は、今でも真に反省しているとは認められず、今後も神世界や傘下団体のために同種再犯に及ぶ惧れは極めて高い。
●職歴からも動機に酌量の余地はなく、被告人の犯罪は強く非難されなければならない。
●被告人に責任の重大性を認識させ、再犯を防止するためには厳重処罰が必要である。法の趣旨に則り、一般予防の観点からも被告人を厳重に処罰することが不可欠だ。被告人は懲役2年の実刑に処するのが相当である。



弁護側主張
 弁護側及び吉田被告が公判で述べた概要は次のような内容だった。
●(組織犯罪処罰法違反「犯人隠避」の公訴事実については)間違いありません。
●斉藤亨被告に逮捕状が出た8月17日夜、斉藤被告から吉田被告に、「御神業上今やらなければならないことがあり、出るわけにはいかない。宿泊などの手配ができないか」と電話で依頼があった。
●神世界事件は私(被告)が関係したことで大きく報道、捜査された。神世界の皆さんには大変な迷惑をかけたと(被告は)負い目を感じていた。
●逃亡を助けることが犯罪であることは認知していたが、信仰する教祖様からの要請であり、断りきれなかった。深く考えずに了解した。
●捜査当局が逮捕状発布後すぐに教祖様を逮捕していれば、自分(吉田被告)が犯人蔵匿罪を犯すこともなかった。捜査当局は逮捕状発布時に教祖様の所在確認をしておらず、そうした警察の失態が、自分の犯罪を誘発した。
●神世界への関与が明らかになったとして、被告は平成20年2月に神奈川県警を懲戒免職になったが、免職の要件はなかった。被告は県警にスケープゴートにされた。
●逃走を手伝った際に報酬は受け取っていない。償いのために弁護士会に100万円の寄付をした。被告は罪を反省している。
●被告人の犯罪は、悪質であるとは言い難い。蔵匿も一時的なものだ。被告人の犯罪はある種、”間抜けで稚拙な犯行”だ。被告人に前科はなく、犯罪傾向もない。実名報道により社会的制裁も受けているので、執行猶予付きの判決をお願いしたい。
●(被告人)深く反省しております。申し訳ありません。


一問一答
被告:犯罪に触れる行為をした認識はありました。自分自身に負い目があった。教祖様から頼まれたので「はい」と応じた。
検事:では、今後また教祖に頼まれたらやってしまうのか。
被告:ケースバイケースだ。
検事:やることもあるということか。
被告:今はそういうことはしないと思う。
検事:なぜそう言えるのか。
被告:裁判官の前でこうやって反省しているから。

検事:観音会と神世界は関係があるのか。
被告:全く関係ない。元は一緒だが別組織。

検事:現時点で神世界に詐欺行為はあったと思うか。
被告:思っておりません。

裁判官:今後の生活について反省をどのように生かしていくのか。
被告:宗教家として斉藤先生のご指導を仰いだ上で、つとめを果たしていきたい
検事:法律違反はしないと心に決めているか。
被告:はい、そうです。


傍聴者の感想
●吉田被告は、斉藤被告を繰り返し「教祖さま」と呼んでおり、教祖に信頼を寄せている様子が強く感じられた。
●あくまで個人的な感想ですが、反省している様には見えませんでした・・・。
●「斉藤先生の御指導を仰いだ上でしっかりと・・・」と答えるなど、まるで反省しているとは思えなかった。
●「償いのために弁護士会に100万円の寄付」って、実刑を免れるためのポーズとしか考えられない。
●「反省している」と言うのは、裁判所向けの口先だけ。言葉の端々に神世界や教祖を擁護する態度がにじみ出ていた。


判決公判(予定)
 被告が罪状を認めたため、審議はこの日の初公判だけで終了し、12/9(金)に、神世界事件としては初の判決が出ることとなった。
判決公判:2011年12月9日(水)
場所:横浜地方裁判所
事件名:詐欺 平成23年(わ)第1704号等



地裁の小窓 ー傍聴最前線ー
(平成23年[わ]第1633号等 2011.12.6 横浜地裁101号法廷)

沈黙を破った「元警視」

 神世界グループの実質的な教祖だった斉藤享被告に逮捕状が出ているのを知りながら、今年の8月〜9月の間に東京都内、岐阜県内のホテルや旅館へ他人名義で宿泊させて蔵匿したとして、組織的犯罪処罰法違反の罪に問われた吉田澄雄被告の公判が11月25日に横浜地裁で開かれ、罪状認否で被告は「間違いありません」と起訴事実を認めた。
 冒頭陳述で検察側は、被告が神奈川県警在職中にグループへの勧誘を行っていた等の理由で08年2月に懲戒免職処分になっていた事や、7月に斉藤被告の逮捕状が出たのを知るや「チェックインをさせてはならない」と関係者に進言していた事などを明らかにした。
 続いて行われた被告人質問で、犯行動機を問われた被告は「元々神世界事件は、私が関わる事で大きくなってしまった。私が関係していなければ騒がれなかったというのが実態で、教祖様に負い目があった」などと釈明。これまでの経緯について問われると、「全てスケープゴートになった感じ。私としては忸怩たる思いで4年間を過ごして来た」と振り返った。
 論告で検察側は、「被告人は警視だった当時から神世界グループに関与して新規顧客の獲得を図っており、活動の概要やトラブルを認識していた。本件では、斉藤被告の義父に指示をして自らの発案で犯行に及んでおり、主導的役割を果たしたのは明らか」として、被告に懲役2年を求刑。対する弁護側は「本件は、斉藤被告の身柄の特定を確認しないまま逮捕状を発布したという捜査当局の失態に誘引されたもので、動機・経緯には酌量の余地がある。信者として負い目を感じていた為に協力してしまったが、行為への加担も一時的であり、必ずしも悪質な事案とは言えない」として執行猶予を求め、結審した。
 判決は12月9日に言い渡される予定。

(傍聴席)
 「吉田に始まり、吉田で終わった」
 捜査段階での取調べに於いて、被告は捜査関係者にこう言われたそうである。

 そもそも、神世界グループの霊感商法が摘発に至ったのは、公安調査庁の緒方長官(当時)が朝鮮総連の土地取引に関与した事件から始まったらしい。
 被告の言によると、朝鮮総連の土地取引を公安調査庁が調べていった過程で、世田谷区の豪邸の存在が浮上。この邸宅を借りていたのが神世界グループだった為、公安が「北朝鮮と関係があるのではないか?」と同団体への内偵捜査を進めていた所、たまたま同団体のサロンに現職の警視(=被告)が通っていた事が発覚。驚いた公安が神奈川県警に連絡して一連の騒動となり、被告曰く「騒動の収まりがつかない、という事で私が免職になった」との事。
 即ち、被告は「俺が発端で捜査が始まったのだから、俺が逮捕されれば全ての捜査が終わりだ」と言いたかったのだろう。「だから教祖様や団体は関係ないよ」とも・・・・・。

 被告人質問で被告は、斉藤被告を「教祖様」と呼び、神世界グループへは絶対的とも思える信頼・信仰心を寄せる一方、古巣の警察や報道へは不信感を露にした。
 「取調官から『私の失態で(犯人隠避の)犯罪を作ってしまった。申し訳ない』と言われた」
 「平成19年12月20日に詐欺罪の被疑者として扱われ、10日間もカン詰め状態にされた」
 「観音会は常に監視されている状態だったから、当局は私達の行動を全て把握していた」
 「私自身が(警視時代に)任務に就いていたのは警備全般で、カルトの担当はしていない」
 「(斉藤被告が逮捕される際に)私自身も現行犯逮捕されると思ったが、捜査主任官から『吉田は帰れ』と言われたから帰っただけで、逃げたのではない」

 そして、本事件の起訴事実である「逮捕状が出ている教祖をかくまった」とされる点については、「教祖様はホテルにチェックインする方法を知らないので、(関係者=斉藤被告の義父が)代わりに手続をして下さいと言っただけ」「教祖様が御信行上1〜2ヶ月はどうしても出られないと言うので、負い目もあってお応えした」とした上で、「犯人隠避の罪になるという認識はあった。犯罪に触れる行為をしたのは申し訳ない」などと反省の弁を述べた。

 この日の公判は、まさに被告が捜査段階で「言いたい事は、裁判官の前で言う」と述べていた通りの展開となった訳であるが、筆者からすると「なるほどねえ・・・」と思う反面、何か釈然としない思いも残る結果となった。主尋問で、弁護側が警察幹部の職を捨ててまで神世界グループにのめり込んだ理由について尋ねなかった為、検察側も踏み込んだ尋問が出来なかった面もあったのは止むを得ないとしても、もうひと工夫して事件の真相や背景に斬り込んでもらいたかった、というのが筆者の正直な感想である。

 ただ、現時点ではっきりしている事が一つだけある。裁判官に「今回の反省をどう活かすのか?」と尋ねられた被告は、ためらう様子も見せずに「宗教家として、しっかり勤めを果たして行きたい」ときっぱり。つまりは、グループの首謀者が逮捕・起訴されようと活動を辞めるつもりはさらさら無い、という事だ。
 それが被告の「せめてもの罪滅ぼし」という思いから来るものなのか、それとも「心の拠り所がここしかない」という思いから来るものなのかは、筆者には知る由も無い。

 ちなみに、法廷での被告の語り口は朴訥そのもので、力強さは微塵も感じさせなかった。しかし、しっかりと筋道を立てて主張すべき所は主張しようとする姿に元警察幹部の片鱗をのぞかせていたのも、これまた事実と言わねばなるまい。

(追補)
 報道によると本事件の判決公判が12月9日に開かれ、佐脇裁判官は被告に懲役2年・執行猶予4年の有罪判決を言い渡した、との事。

(上記の記事は、下記URLにある。「地裁の小窓」から引用させていただきました)
http://0-3459.at.webry.info/201111/article_19.html






2、吉田澄雄 判決公判
2011年12月9日に行われた吉田澄雄被告の判決公判
この動画ニュースはここをクリックしてください。
 2011年12月9日(水)、神世界事件関連裁判としては初の判決が出た。
 神奈川県警元警視・吉田澄雄は、逮捕状が出ていた神世界教祖・斉藤亨の逃亡を助けたとして、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反(犯人隠避)の容疑で逮捕・起訴され、公判中であったが、佐脇有紀裁判官は吉田被告に対し、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を言い渡した。

 初犯であること、初公判で罪を認めていること、反省を示すために100万円の寄付を行っていることなど、”表面上は”反省の態度を示していたことから、おそらく執行猶予付きの判決が出されるであろうことは予測されていた。執行猶予付きとは言え、この罪では最高刑である懲役2年の判決が出されたことで、今後、他の被告に対する判決の方向性が見えたようでもある。
 弁護側は執行猶予付きを求めていたので、判決後の会見で控訴しない旨表明した。検察側が控訴するかについては現時点では不明。
 吉田被告は閉廷後、報道陣の呼び掛けに答えずに無言でタクシーに乗り込んだが、裁判で述べた「反省している」という言葉が真意であるなら、なんらかの言葉があって然るべきであり、どう見ても反省しているようには見えなかった。

 この日の判決公判の様子は、「やや日刊カルト新聞」に詳細が掲載されています。



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