神世界事件の刑事裁判

9 斉藤亨、佐野孝、淺原史利、淺原嘉子 第9回公判
 (斉藤亨の公判としては、第6回公判)


(TV TOKYO ニュースより)

1 日時:平成24年5月1日(火)
  午前1時30分〜2時00分
2 場所:横浜地方裁判所第405号法廷
3 事件番号:平成23年(わ)第972号等
4 罪状:組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)
5 被告:佐野孝、淺原史利、淺原嘉子、斉藤亨
6 裁判長 朝山芳史
  裁判官 奥山 豪
  裁判官 山本美緒
7 検事:野呂裕子検事、波多野博昭検事
8 被告弁護人:尾崎幸廣弁護士、市河真吾弁護士
■■■■■■■冨田秀実弁護士
9 内容:判決言い渡し

傍聴希望者
 2011年9月22日に始まった佐野孝、淺原史利、淺原嘉子の3被告の裁判、そして2011年12月6日に始まった斉藤亨被告の裁判は、2012年5月1日(火)、判決を迎えることになった。初公判から7カ月余りという比較的速い時間で判決となったのは、被告全員が公判途中で起訴事実を全面的に認めたためである。
 神世界事件は宗教事犯ではないが、いわゆる”宗教がらみ”の詐欺事件としては、教祖が詐欺を認めたのは前代未聞の出来事であり、その点でも注目を集めた。
 教祖が詐欺を認めた”歴史的”裁判の判決とあって、この日の傍聴希望者はこれまで最高であった第7回公判の213名を大きく超える306名の傍聴希望者が列を作った。地裁側も再三にわたる被害者側からの申し入れに応えて、この日の判決公判は横浜地裁で最も大きな法廷である101号法廷で行われた。
 しかし一般傍聴席の数は61席であり、245名は傍聴できなかった。アメリカのように注目される裁判はテレビ中継するなどの改革を日本でも行ってほしいと感じた。
 当選率19.9%の狭き門であったが、私(fujiya)は自力で当選することができ、無事傍聴席に入ることができた。しかし、私の横の席は最初から最後まで空いており、当選したにも係わらず入廷させてもらえなかった”信者”が今回もいたようだ。

盗撮者
 すでに掲示板で明らかにされているが、この日の横浜地裁には、被害者側の動向をスマホで撮影していた”信者”がいた。
 その女は地裁の外でも撮影していた可能性があるが、なんと撮影が禁止されている地裁のロビー内でも被害者を撮影していた。女は30代半ば位の一見おとなしそうなボブヘアの女だった。女はあごの下、胸の上あたりにスマホを立てて固定しながら少しずつ体の向きを変えながらロビー内を撮影していた。時折、立てたスマホの内側をチラっと確認しながら撮影を続けているのを、ある被害者が気づいた。
 被害者が気付いた時は、ちょうど私(fujiya)が、他の被害者の方と話をしているところを狙って撮影していたようだ。この日は県警の刑事も多数ロビー内にいたが、女は今後の参考にするためか、刑事の姿も撮っていたようだ。
 盗撮であることに気づいた被害者は、2メートルほど離れた場所から女に向かって、「あれーっ、ムービー撮ってる奴がいる〜。いいのかなあ〜」と大きな声で警告したが、女は一瞬顔色を変えただけでスマホ撮影はそのまま続けていた。そこで被害者は、ちょうど近くにいた裁判所職員に、「裁判所内で携帯電話のカメラで盗撮している人がいます。この人です」と女を指さして言った。すると女は、「違います」とだけ言って、すぐにその場から逃げ去った。もし盗撮していたのでないなら逃げる必要などなく、堂々と反論し抗議をするであろうが、女は何らの抗議もせずに逃げ去った。
 女に撮影を指示したのは誰なのか?


13時30分開廷

■裁判長:開廷します。被告人4人は前へ。

⇒斉藤、佐野、史利、嘉子の4被告が被告人席から立ち上がり、証言台の手前に横一列に並んだ。4名の服装はダーク系スーツを着用していた。

■裁判長:それでは、被告人斉藤亨、被告人佐野孝、被告人淺原史利、被告人淺原嘉子に対する組織的な犯罪の処罰に関する法律違反について判決を言い渡す。
 主文は後で読み、理由を先に述べる。まず裁判所が認定した犯罪事実。

●犯罪事実
 被告人斉藤亨は(有)神世界を統括しており、同社並びにその傘下法人である(有)E2、及びえんとらんすアカサカ等で構成される神世界グループ全般を統括する立場にあった。
 被告人佐野孝は、上記えんとらんすアカサカ他二法人で構成されるえんとらんすアカサカの業務全般を統括していたものである。
 被告人淺原史利(以下被告人史利という)、同じく被告人淺原嘉子(以下被告人嘉子という)は、上記えんとらんすアカサカの代表取締役として、同社の業務全般を統括するとともに、神霊能力を有する神霊鑑定士として、神霊鑑定及び祈願等を行っていたものである。
 神世界グループは、神霊鑑定士が顧客の疾病や悩み事の原因を的確に特定した上、祈願等の方法により、その悩み事確実に解決する能力等ないのにこれをあるようい装い、顧客から祈願料等の名目で、金員を詐取することを共同の目的とする多数の継続的結合体であって、被告人斉藤の指示に基づき、顧客に対して神霊鑑定及び祈願の実施などの任務を分担し、組織により祈願料などの名目で金員を詐取する活動を反復していた団体である。

第1
 被告人斉藤は、神霊鑑定士と称して神霊鑑定及び祈願等を実施していた杉本明枝こと吉田明枝らと共謀の上、会社の経営不振などを相談してきたE2の顧客・被害者F他2名から金員を詐取しようと企て、別紙犯罪事実一覧表に記載の通り平成16年4月15日頃から平成17年12月3日頃までの間、前後13回にわたり東京都港区赤坂8丁目所在のE2の店舗他4箇所に於いて上記被害者F他2名に対し、真実は吉田(杉本)には顧客の経営不振や疾病の原因等を特定する能力などないのにこれがあるように装い、「呪縛霊及び先祖の霊が経営不振の悩み事の原因である。祈願等を受ければその悩み事が解決できる」と嘘を言うなどし、上記被害者Fらを誤信させ、平成16年5月19日頃から平成17年12月11日頃の間、前後7回にわたり、上記E2の店舗他1箇所に於いて、被害者F等他2名から祈願料などの名目で1190万円の交付を受けた。

第2
 被告人4名は、共謀の上、子宮筋腫に悩んでいたえんとらんすアカサカの顧客・被害者D他1名から金員を詐取しようと企て、別紙犯罪事実一覧表に記載のとおり、平成18年5月21日頃から同年7月30日頃までの間、前後4回にわたり東京都港区港南2丁目所在のストーリア品川2801号室の同社店舗他2箇所において、真実は被告人史利らには顧客の疾病等の悩み事の原因を的確に特定した上、祈願等の方法によりその悩み事を確実に解決する能力などないのにこれがあるように装い、上記被害者D他1名に対し、薬の毒素が子宮筋腫の原因であり100万円の祈願をすれば子宮筋腫が治癒すると嘘を言うなどし、上記被害者Dらを誤信させ、それぞれ平成18年5月29日頃から同年9月19日頃の間、前後3回にわたって東京都千代田区永田町1丁目所在のプレデンシャルタワーレジデンス3705号室の同社店舗他1箇所において被害者D他1名から祈願料の名目で現金合計150万円の交付を受け、それぞれ団体の活動として詐欺の罪に当たる行為を執行した。
 別紙犯罪事実一覧表については朗読を省略する。事実は概ね検察官が起訴状に記載した起訴事実の通りであるが、一部の犯行については包括して一罪とする。

 以上の事実について相当法令を適用し、被告人等の行為について判決を言い渡すが、まず量刑の内容について述べる。
 本件は顧客から祈願料などの名目で金員を詐取することを目的とする(有)神世界の最高責任者であった被告人斉藤が、傘下法人であるE2の経営者であった杉本等と共謀の上、被害者3名に対し、祈願等をすれば悩み事が解決する等と嘘を言って現金合計1190万円を詐取し、被告人斉藤は(有)神世界傘下法人である(有)えんとらんすアカサカの業務を統括していた被告人佐野、同社の取締役であった被告人史利及び被告人嘉子が、共謀の上上記と同じ手口で被害者2名から現金を詐取した組織的詐欺である。
 神世界グループは、(有)神世界を頂点とし、その傘下にえんとらんすアカサカ、E2などの多数の法人を有し、登記上は占いによる運勢・姓名などの鑑定を目的とする営利団体の集合団体であるが、実際には被告人斉藤の指示の下、一種の宗教活動を行っていた。神世界グループに於いては、「教主」と呼ばれていた被告人斉藤が著した「神書」なる本が行動規範とされており、同書に於いては、神様から発する御霊光には現代医学では不治、あるいは難病を治癒する能力があり、神様に労力や金を提供して神様と取り引きをすることにより奇跡が実現するなどと謳っていた。
 えんとらんすアカサカやE2などの傘下法人は、(有)神世界との間で業務提携契約を締結しており、御霊光の取り次ぎや神霊鑑定などの売上げの内、時期によって変遷はあるものの、50%ないし30%を売上金として(有)神世界に上納していた。
 神世界グループに於いては、従来御霊光の取り次ぎを主力商品としていたが、被告人斉藤はこれに加え、神霊鑑定により顧客から多額の金員を獲得する方法を考案し、被告人佐野を神霊鑑定士としたのを手始めに、傘下法人の経営者らを次々と神霊鑑定士に仕立てて神霊鑑定を行わせ、売り上げを飛躍的に増大させた。
 中でもえんとらんすアカサカに於いては、被告人佐野や被告人史利が講師となって他の傘下法人の経営者らを対象に「神霊能力開発講座」を開講し、同講座を受講すれば神霊能力が取得できると標榜していた。

 神世界グループによる詐欺の典型的手口は、担当従業員が宗教色を隠蔽しつつ「ヒーリングを受けてみないか」などと言って、主として30代から40代の女性を勧誘して顧客を獲得し、サロンと称する店舗に於いて、比較的安価な御霊光の取り次ぎを繰り返し受けさせるとともに、「フォロー」と称する対話などにより、御霊光にはあらゆる病気を治癒して運気を好転させる力がある、御霊光を受け続けなければ大変まずいことが起きる等と信じ込ませた上、神霊鑑定士による神霊鑑定や御祈願を受ければ疾病や経営不振などの悩み事の原因を特定してこれを解決ることができる等と言って高額な神霊鑑定や御祈願へと誘導した。「御玉串」と称して多額の現金を交付させるというものであった。

 本件各犯行は、概ね被告の利益に沿って行われており、被害者の健康等に関する悩み等につけ込んで多額の現金を詐取した巧妙かつ悪質な内容のものであり、先に述べた通りの組織的犯行の一環として行われたものである。
 被害者は長年にわたって積み上げてきた貯金を取り崩したり、借金をしたりして工面した現金を騙し取られた上、解決するとされていた悩みは解決せず、御祈願等の他に解決手段はないと言われていたため治療が遅れて苦しめられた他、ヒーリングサロンに加入したことにより友人を失うなど、???、精神的・肉体的苦痛を被っており、被害結果は重大である。

 次に、被告人らの個別の犯情を見ると、被告人斉藤は神世界グループの最高責任者であり、教主として絶対的な地位を占めていたものであり、神書を著してグループの行動規範を定めると共に、グループの組織を形成し、御霊光の取次から神霊鑑定、御祈願といった詐欺のシステムを考案し、これを構築し、その上で被告人斉藤は祭典や会議などの機会に、傘下法人の各経営者に対し、「御神業のためには金と人が必要である」などと述べ、上記システムに乗っ取って神霊鑑定や御祈願を行い、顧客を獲得し売り上げを到達することを至上命題として掲げると共に、売り上げの低い傘下法人を他の傘下法人に吸収させるなどして、各経営者間の熾烈な競争を煽っていった。
 また被告人斉藤は、傘下法人からロイヤリティとして、有限会社神世界に上納させた売上金の相当部分を自己の報酬として巨額の利得を得ていた。その上、高級ブランド品などの贅沢品の購入などにこれを充てている。
 更に被告人斉藤は、公判廷において事実関係を認めたものの、「神霊鑑定を正確にできない者が神霊鑑定をすることを阻止しなかった点に問題があった」などと不正行為を助長していなかったかのような供述をしており、自己の責任の所在を曖昧にしている。

 次に、被告人佐野は、えんとらんすグループの業務を統括していたほか、神世界グループの初代の神霊鑑定士と称し、神霊能力開発講座を開講するなどして、他の者を神霊鑑定士として養成する活動にも従事しており、神世界グループの中でも被告人斉藤に次ぐ最高幹部の一人であった。
 また被告人佐野は、被告人斉藤の指示のもと、えんとらんすグループ内部においては被告人嘉子および被告人史利を厳しく叱咤することによって、売り上げを上げさせていた。
 更に被告人佐野はえんとらんすグループの売上金の中から高額の報酬を受け取り、相当な利得を得ていた。
 被告人佐野は、公判廷においても当初は本件各犯行を否認しており、組織的詐欺の事実を認めた後に「説明不足により説明が不十分となり、誤解が生じた」と弁解するなど、反省の態度は十分であるとは言い難い。

 被告人史利は、えんとらんすグループにおいて被告人佐野および被告人嘉子に次ぐ枢要な地位を占め、神世界グループにおいては、被告人佐野の指示のもと、神霊能力開発講座の講師を担当するなどして、神霊鑑定士の養成に携わったほか、本件各犯行においても欺罔行為を担当するなど重要な役割を果たしている。また、被告人史利は、えんとらんすグループの売上金の中から相当額の利得を得ていた。
 被告人史利は、公判廷においても当初は本件各犯行を否認し、組織的詐欺の事実を認めたのちも、各犯行について「自己の言動が各被害者の誤解を招いた」などと弁解しており、反省の態度が十分であるとは言い難い。

 次に被告人嘉子は神世界グループにおいて枢要な役割を果たしており、えんとらんすアカサカにおいては教会長として被告人佐野に次ぐ高い位置を占め、神霊鑑定士として高額の御祈願を担当しており、本件の一部の犯行において御祈願を行うなど重要な役割を果たしていた。
 また被告人嘉子も、被告人史利と同様、相当額の利得を得ている。
 被告人嘉子は、公判廷においても当初は本件各犯行を否認し、組織的詐欺の事実を認めたのちも、「人を集めることがメインで売り上げには固執していなかった」と述べるなど、自己の責任の軽減を図るような供述をしており、反省の態度は必ずしも十分ではない。

 他方で、神世界グループは本件各被害者を含め、民事訴訟を提起した民事訴訟原告のほか、民事訴訟を提起していない者を含む被害者等の間で和解が成立した上、本件各被害者を含む大部分の被害者に対する和解金の支払いを終えており、被害者の損害は相当程度補填されている。
 また、有限会社神世界および傘下の会社は全て解散しており、被告人らが再び同種の犯行に及ぶ可能性は低い。
 これらの点は、被告人らの刑事責任を論ずる上で十分考慮すべき事情であると言える。 また、被告人佐野、同じく史利、及び同じく嘉子の神世界グループ内での役割はともかく、これら3名の被告人が関わったえんとらんすアカサカにおける本件各犯行は、財産的には合計150万円の被害を引き起こしたに留まっており、それ自体、重大視すべきものとは言えない。
 更に被告人佐野は、平成17年頃から被告人斉藤に対し、神霊鑑定の中止および被害者に対する返金を進言しており、本件各被害者等との間で和解が成立したことについて一定の貢献をしたことが認められる。この点は被告人佐野の刑事責任を考慮するうえで見過ごすことはできない。

 それに対し被告人斉藤は、神世界グループにおける唯一の意思決定者であったのであるから、被告人佐野から進言を受けた時点で、これを受けて神霊鑑定の中止などを指示しうる立場にあったにも関わらず、これを言えなかったばかりか、更なる売上の増加を指示するなどして本件各犯行に至っており、この点においても強い批判は免れない。
 その他被告人4名が何れも被害者等に対する謝罪の弁を述べ、今後は神世界はもとより、宗教活動を一切行わないと述べていることや、前科前歴がないなどの汲むべき事情が認められる。

 以上の検討をもとに、各被告人に対し、事件に対する判決を言い渡す。

 被告人斉藤については、先に述べた通り、神世界グループの最高責任者として、組織を形成する上での役割、本件各犯行に対する指示、一連の犯行による利得など、いずれの点をとってもその責任は極めて重い。先に述べた被告人のために汲むべき事情を最大限考慮しても、到底刑の執行を猶予すべきではなく、主文の実刑を免れないと判断した。

 被告人佐野、同じく史利、および同じく嘉子については、先に述べた通りそれぞれ神世界グループにおける地位、えんとらんすアカサカにおける本件各犯行に果たした役割を見ると、被告人佐野の責任は相当に重く、被告人史利、および被告人嘉子の各責任もそれなりに重いと言わざるを得ないが、先に述べたような被告人らのために汲むべき事情を考慮すると、それぞれ主文の刑を執行した上、今回に限り、いずれもその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。


●主文
■裁判長:それでは主文を読み上げる。

被告人斉藤亨を懲役5年に、
被告人佐野孝を懲役3年に、
被告人淺原史利を懲役2年6月に、
被告人淺原嘉子を懲役2年6月に処する


 被告人4名に対し、各未決勾留日数中いずれも90日をそれぞれの刑に参入する。
 この裁判が確定した日から、被告人佐野孝に対して5年間、被告人淺原史利に対して4年間、被告人淺原嘉子に対して4年間それぞれその刑の執行を猶予する。
 訴訟費用は被告人佐野孝、被告人淺原史利、被告人淺原嘉子が連帯して支払え。
以上。

⇒朝山裁判長は、再度主文を読み上げ、4名の被告に、「分かりましたか?」と尋ねた。それに対し、4被告は小さく頷いた。

■裁判長:判決に対して不服があれば控訴の申し立てをすることができる。控訴する場合は、今日から15日以内に東京高等裁判所宛に控訴の申立書を書いて提出するように。

13時50分閉廷

 この後、傍聴者は追い立てられるように外へ出されたが、退出が最後の方になった傍聴者が見たのは、ハンカチを取り出して涙をぬぐう斉藤亨被告の姿だった。斉藤被告は裁判長に一例した後、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭いていたが、被告人席に着席した後もメソメソと泣いているように見えた。執行猶予付き判決を期待していた斉藤としては、実刑判決を下されたことがよほどショックだったのだろう。被害者に返金し、組織を解散し、なんとしてでも鉄格子の中に入りたくなかった斉藤だが、被害者に一言の謝罪もせずに済むと思ったこと自体が、余りにも浅はかであったことを、どの程度斉藤は思い知ったのだろうか。
 斉藤には実刑判決が下されたが、他の被告に下されたのは執行猶予付き判決であった。被害者の中には彼らに執行猶予付き判決が下されたことに怒りを募らせ、「淺原!絶対に許さないからな!」と被告席に向かって叫んだ人もいた。



判決公判を傍聴した被害者の声

 今回、被告4人は法廷の前方から傍聴席を一望する形で入廷した。
 被害者の顔を確認したお気持ちは如何なものか、努めて表情に出さないようにしていたが、舞台の上から客を見下ろしていた頃とはまるで違う心持ちであったことは言うまでもないだろう。
 前泊の荷物なのか、詐欺師の七つ道具か知らないが、淺原が風呂敷包みを抱えて入廷する姿は緊張感に欠くものであった。
 控え室に置いてくるか、お付きに預けてくればいいものを、自ら荷物を運ぶその姿は哀れなものだ。
 昔はお付きに持たせていたが、今更、気遣ってくれる者はいないというか、そこまで気づける人材はいないということか。
 閉鎖したえんとらんすの入り口に張ってある手書きの紙にも笑ったが、まったく陳腐な人々である。とても180億以上の売り上げを得ていた会社のやることとは思えない。それくらい幹部一族と現場の人間の認識はかけ離れている。

 裁判長から「被告人、前へ」と言われて4人が起立し、横並びに並んだが、斉藤が少し前に立ち、微妙に佐野も淺原夫妻より前に立っていたように見えた。淺原の意識がそうさせたのかもしれないが、公判中、自分より立場が上であるはずの嘉子に敬意を示す姿はまるでなく、嘉子もいつも小さくしていた。教会長なんて虚構の立場でしかないことが分かる。
 一般現役客こそ、この現実を見るべきだと思うが、一般現役客を傍聴させない幹部のやり方は、汚いの一言に尽きる。

 判決を言い渡される前、淺原が髪をかき上げるしぐさをしたことを見逃がさなかった。 まったく無礼な男である。4人の中で一番覚悟をしていたように見えるのは佐野だが、執行猶予になったことで心底ホッとしたことだろう。
本当に反省しているというのならば、それに見合う行動をとるべきである。

 ロビーの隅から隅まで埋め尽くすくらいの傍聴希望者が並んだが、果たして、新たに真実に目を向けられる人はいるのだろうか。






弁護団記者会見

横浜港開港記念館

 判決後に、神世界被害対策弁護団による記者会見が地裁近くの横浜港開港記念館で行われた。マスコミ各社の関心は高く、テレビカメラが7〜8台、記者も数十名、被害者も複数名が参加して1時間以上にわたって記者会見が行われた。
 弁護団長の紀藤正樹弁護士は、「今回の裁判で検察は”詐欺”という金銭被害に力を入れて立証したが、組織の活動実態の立証が足りない。個々の被告等が組織内で行ってきたことを見れば、人を人とも思わない上下関係、威圧的なものがきちんと立証されていない。普通の詐欺と同じように金銭的な被害にのみ目が向けられた結果、刑罰が限定された。被告等が、”自分たちがやったことが間違いであった”と言うためには、この団体の特性自体が間違いだったというところまで踏み込んで反省し言及しなければ本当の意味での反省とは言えない。本当の意味での反省がなければ、被告等はまた同じようなことを繰り返すことになる。
 彼らの活動は今でも活発に続けられている。彼らの教祖が詐欺で立件されているにも係わらず、未だに”誤解である”とか、”被害者の一部が被害を訴えたことによって関係者が逮捕された”など、被害者に責任転嫁するような言動をして今でも活動を続けている。こうした言動を見ていると、現在は教祖の実刑を阻止し、できるだけ軽い刑罰にするために自制的な活動に抑え、表向き反省しているように装っているだけであると言える。彼らにはこれまでの組織的な活動が間違いであったという根本的認識がない。これまでやってきたことの何が間違いだったのかという検証を彼ら自身が行い、間違いの根源を彼ら自身が気づかない限り、彼らはまた同じ過ちを繰り返すことになる。(以上、要約)」と述べた。(記者会見の動画はこちらです。)


 続いて下記の声明を、事務局長の荻上守生弁護士が読み上げた。



神世界による組織的詐欺事件の判決に関する声明

平成24年5月1日


横浜市開港記念会館にて行われた記者会見(2012年5月1日)
東京都千代田区麹町4丁目7番地
麹町パークサイドビル3階
リンク総合法律事務所
TEL 03-3515-6681
FAX 03-3515-6682
神世界被害対策弁護団
団 長 弁護士 紀 藤 正 樹
事務局長 弁護士 荻 上 守 生
外28名  


 当弁護団は、斉藤亨を頂点とする神世界グループによる組織的詐欺事件の被害者らの被害回復等を目的として結成された弁護団です。
 本日午後1時30分、横浜地方裁判所第101号法廷において、神世界の教祖である斉藤亨及び神世界傘下のえんとらんすグループのトップで会主という立場にある佐野孝他幹部2名に対する組織的詐欺被告事件の判決宣告期日が開かれ、斉藤亨被告人に対し懲役5年の実刑、佐野孝被告人に対し懲役3年執行猶予5年の刑、幹部である淺原夫妻に対しては懲役2年6月執行猶予4年の刑がそれぞれ言い渡されました。
 この判決は、教祖の指示で宗教行為に仮託してなされた金銭収奪行為が組織的詐欺行為にあたることを認定したものであり、この点は統一協会(世界基督教統一神霊協会)に代表されるいわゆる霊感商法による被害が絶えない中、画期的な意義を有するものと評価できます。また本件は、宗教団体の教祖が、宗教活動について詐欺にあたることを認めた、わが国における戦後の宗教史上初の事件であると思われます。
 被害者の悲痛な叫びに真摯に耳を傾け、慎重かつ粘り強く捜査を継続され、教祖斉藤亨をはじめとする幹部らの組織的詐欺による有罪判決を得るまでにご尽力された捜査機関の方々には、改めて敬意を表します。
 もっとも、今回の判決の量刑は、被害実態に比べれば軽過ぎると言わざるを得ず、この点は容認できません。当弁護団は、検察官に対しては、速やかに控訴するよう求めるとともに、控訴審では、すべての被告人に対して本日言い渡された刑を上回る実刑判決が宣告されるべきであると考えます。
 以下、その理由を述べます。

 本件は、神世界グループの幹部である被告人らが、「癒し」、あるいは、「ヒーリング」という耳当たりのいい宣伝文句により一般市民を「ヒーリングサロン」などと称する活動拠点に勧誘し、真実は宗教団体である神世界の資金獲得を目的としているにもかかわらず、その目的及び宗教団体であることを殊更に隠し、被害者の抱える悩みや問題の原因が、体に溜まっている毒素や先祖の因縁であって、御霊光・御祈願をしなければ悩みや問題が解決しないなどと虚偽の事実を断定的に述べて、被害者らの不安感・恐怖感を煽り、御祈願や御礼など様々な名目で多額の金銭を騙し取っていたという事案です。その被害者は多数に上り、被害金額は、現在判明しているだけでも合計約180億円という巨額のものとなっています。
 神世界の教祖である斉藤亨やえんとらんすグループのトップであり会主と呼ばれていた佐野孝の責任が極めて重大であることは当然ですが、淺原史利も淺原嘉子も、それぞれ有限会社えんとらんすアカサカの代表取締役や取締役、えんとらんすグループ内でNo.2の「教会長」などとして、極めて重要な役割を担っていた者であり、とりわけ淺原史利は、本件の被害者に対して直接、その悩みにつけ込んで虚偽の事実を述べ、高額な金員を支払わせた者ですから、その責任もやはり重大です。

 これに対し、横浜地裁は、神世界グループが解散を宣言し、会社を清算中であり再犯可能性が低いこと、一部の被害者との間で示談が成立していること、刑事事件の被害者以外の被害者にも被害弁償をしていること、立件された被害金額が高額ではないこと等を被告人らに有利な事情として挙げ、検察官の求刑に比べて格段に軽い、上記内容の刑を言い渡しました。
 しかしながら、神世界グループが解散を宣言し、傘下の各会社も清算中と称しているとはいえ、被告人らの供述内容や被告人らの公判傍聴に動員されている信者の態度、同グループ内の一部の会社が解散発表前に相次いで商号変更をしていた事実等からすると、同グループは従前どおりの活動の継続を志向していることが窺われ、再犯のおそれは極めて大きいと言わざるを得ません。そもそも、業務として組織的詐欺行為に及んでいた法人組織を解散するのは当然であって、これを被告人に有利な事情として斟酌するべきではありません。
 また、約6億円の被害弁償が実現し、今後も約9300万円の被害弁償が見込まれているとはいえ、少なくとも180億円を超える被害全体と比較すれば、これらの合計額は4%にも満たないものです。大半の被害について被害弁償が実現していないのですから、組織的詐欺による違法収益はいまだ被告人らの懐に留まっているものと評価するべきです。  さらに、神世界グループによる活動は、単に経済的被害をもたらしただけでなく、適切な医療を受ける機会をも失わせるものであり、その前身である千手観音教会の頃から明らかになっているだけでも幼児2名、成人2名の尊い命が失われ、佐野孝の実子で斉藤亨の養子に重度の後遺障害を残すなど、人の生命、身体への重大な侵害をも伴い、人生そのものを狂わせてしまうものでした。その手口も、藁にもすがりたいほどの悩みを抱えた被害者に対して宗教性を秘匿して言葉巧みに近づき、その悩みにつけ込み利用していたもので極めて悪質です。
 これらの事情からすれば、会社の解散や被害弁償、立件された金額が高額ではないことを理由に、被告人らの刑事責任が軽減されるべきではないことは明らかです。このような極めて悪質な組織的詐欺事件において、組織的詐欺行為によって得た巨額の資金によって、ごく一部の被害者に対してなされたにすぎない被害弁償を過度に評価して、教祖である斉藤亨の刑を大幅に軽減することやえんとらんすグループのトップである佐野孝、重大な役割を果たした幹部である淺原史利、嘉子に対し、執行猶予を付することは、深刻な被害実態への配慮が極めて不十分であるだけでなく、組織的詐欺罪が創設された趣旨をも没却する上、統一協会(世界基督教統一神霊協会)をはじめとする同種の霊感商法を行っている団体の違法行為に対する抑止的効果も薄れさせ、あるいはかえって助長することにつながるのではないかという懸念も払拭できません。

 以上のとおり、神世界グループによる組織的詐欺行為の悪質さ、被害実態の深刻さ、各被告人の果たした役割や責任の重さからすれば、本日被告人らに言い渡された刑はあまりに軽すぎると言わざるを得ず、控訴審においてより重い実刑判決が宣告されるべきであると考えます。

以上


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