和解内容から見た神世界被害

記者会見をする被害対策弁護団(TBSニュースより)
(2012年1月31日、司法記者クラブ)

(上記表中の損害額は慰謝料等を含まない実損額)
 神世界に対する損害賠償訴訟は、2012年1月30日に行われた第20回和解期日に於いて被告・原告双方が和解に達し、原告側全面勝訴的和解となった。
 この和解を受けて、被害対策弁護団は翌31日午後3時から、東京地裁内の司法記者クラブにて記者会見を行い、和解に至る経過や、和解の詳細な内容について報告した。報告された内容は多岐にわたるが、その要点をまとめてみた。
 今回、和解となった被害者の数は、損害賠償訴訟の原告48名と訴外で返金請求をしていた被害者65名の、計113名だ。神世界から被害を受けた人の数は数千人とも言われているが、被害を訴え出た113名の被害状況から、神世界事件を考察してみた。


1、系列別被害状況
 まず、113名の被害者が、主としてどの系列で被害を受けていたのかを調べてみた。複数のサロンに通い被害に遭った人については、主として通ったサロンに分類した。系列によって被害者数にはばらつきがあるが、営業期間が比較的短かったE2、わーるどヒルズ、スリートゥー1は被害者数が少ない。被害者数が少ないにも係わらず、E2(イースクエア)の損害額が高額になっているのは、一連の神世界事件の中で最高額の被害がE2で発生しているためだ。プラス花(美っとスティジ)は”地域限定”のような形で営業していた関係もあり、被害者数は少ない。スリートゥー1という会社は幾度か代表者が交代しているが、最終的には淺原嘉子が代表を務めていた会社だ。
 この系列別被害状況の表を見ると、大半の被害が、びびっと、えんとらんすアカサカ、みろくの主要サロンで発生していることが分かる。神世界系列サロンの経営者で逮捕されているのは、E2の杉本被告と、えんとらんすアカサカの淺原夫妻及び佐野夫妻だけであるが、上記の表を見れば分かる通り、びびっとでの被害は被害者数も損害額も系列中で最も大きな数値となっている。それにも係わらず、びびっと経営者・W田M和が逮捕されていないのは、なんとしても納得が行かない点だ。みろく、わーるどヒルズに於いても多くの被害が発生しており、これらの経営者も未だに逮捕されていない。神世界系列サロンの経営者は一蓮托生であり、まだ逮捕されていないこれら経営者も、すでに逮捕されている被告らと同等の犯罪行為を繰り返していたことは明白であり、その責任は厳しく追及されねばならない。
 ここに挙げた数値は、113名の神世界被害者が被った被害額でしかなく、いわば”氷山の一角”の被害額だ。実際の神世界被害は、この何十倍もの被害が、この下に隠れていることを忘れてはならない。

みろく「和解書」
 被害者が申告した被害額は最少で30数万円、最多で2200万円以上と、個人によって大きな違いがあるが、そうした被害額の違いは、神世界に係わっていた期間の長さだけで生じたものではない。神世界のやり方は、相手の状態を見定め、搾り取れる客からは徹底して大金を詐取し続けた。時には銀行から借金をさせて祈願代を出させたり、「御霊光によって守られているから生命保険は必要ない」等と嘯いて保険を解約させ、その金も神世界に投じさせたりしてきた。このため、短期間であっても大きな被害を被った客も多い。系列が違っても客の不安を煽って金を騙し取る手口には共通性があり、斉藤亨の指揮の下、各社が競って組織的詐欺を行ってきた。
 系列別被害一覧表を見ると、みろく系列の被害額が人数の割には若干低くなっているように感じられるが、これは2007年12月に警察の強制捜査が行われた後に、みろく経営者・M入E実が、返金を迫った被害者に対して独自の判断で返金したためである。事件が公になった後、当時、声を大にして被害を訴えていた複数の高額被害者の自宅や勤め先に、M入E実の指示を受けたスタッフが現金の束と和解書を持って訪れた。和解書には、「今後、異議申し立てをしない。和解したことを他に漏らさないという守秘義務を守る」などと書かれていた(右記)。かなりの数の客がその場で金を受け取り、和解書に押印した。他の系列では、こうした返金例は報告されていない。  事件の発覚を受けて、M入E実が手早くこうした、”火消し作業”を行ったのは、その当時から自分がやっていることが違法な行為であると認識していた証拠だ。


2、地域別被害状況
 E2や「プラス花」のように、地域限定で営業していたサロンもあったが、えんとらんすアカサカ、みろく、びびっと、わーるどヒルズ、スリートゥー1などのサロンは、競って全国にその営業拠点の拡大を図っていた。下記の日本地図は、えんとらんすわーるどヒルズが、それぞれの地域の担当者を決める際に作成したものだ。
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 これと同じことが他の系列でも行われており、当HPにある、神世界関連施設(観光シリーズ)でも紹介しているように、神世界関連サロンは、北は北海道から南は沖縄まで日本全国各地に点在した。「ヒーリングサロン」等と称した神世界系列のサロンは、最盛期には主立った拠点が全国に120箇所以上、個人宅など小さなものも含めると200箇所以上のサロンが存在し、組織的詐欺の拠点となっていた。
 北海道で最も”活躍”したのは、当時北海道大学の准教授であった竹市(小山)幸子と、竹市を手先に使っていた、(有)えんとらんすわーるどヒルズ経営者のKR山E子だ。札幌の被害者数が多いのは、両名によってもたらされた被害が多いからだ。北大を解雇された竹市幸子は、いまどこにいるのだろうか?
 私の手元には、「札幌御祈願者リスト」という、わーるどヒルズの資料があるが、そこには30万円、50万円など高額な御祈願を繰り返し行っている100名ほどの被害者の氏名が累々と並んでいる。こうした事実を見ても、被害を訴え出ているのはごくごく一部の被害者でしかないことが分かる。
 刑事裁判の証人として出廷したKR山E子の娘・りらの証言によると、「母については、そのような流れでご迷惑をおかけしたので、神世界からは離れる」とのことだが、迷惑をかけたという認識が本当にあるのならば、神世界を離れるに当たって、被害者に申し述べることはないのか? KR山E子らによって大きく人生を狂わされた多くの被害者が、どのような思いでいるのか考えたことはあるのか?
 被害者が最も多い東京は、各系列が競ってサロン展開をしたため、都内には数多くの拠点が存在した。今でも、個人宅マンションなどを根城にして、神世界の活動は続けられている。びびっとのW田M和は、教祖が逮捕されようが、民事の被害者に返金がなされようが、そんなこととは関係なしに今後もびびっとの活動を続けて行くことを宣言している。
 今後しばらくは、神世界としての活動は若干下火になるのだろうが、かって神世界傘下にあった各地の拠点は、現在はその多くが観音会傘下の拠点となっており、これからは観音会が主体になって活動が続けられていくであろう。
 淺原史利被告も、「私自身は御霊光によって奇跡を頂いたのは私の中では真実なので、個人的に御霊光の元である神様への信仰は続ける。御霊光は受け続けたいと思う」と被告人質問で証言しており、今後もこれまで通りの活動を続けて行くと述べている。史利被告は逮捕される以前から観音会に足繁く出入りしており、高齢の観音会代表の名代として各地に出向き行事を執り行うなどしていたので、刑期を終えれば、再び観音会で活動を続けていくつもりなのだろう。有罪判決を受けた吉田澄雄被告も、「(今後は)宗教家として、しっかり勤めを果たして行きたい」と公判で述べており、観音会後継者候補として杉本明枝被告とともに、吉田もまた、観音会を拠点として活動を続けて行くのだろう。
 教祖や幹部の逮捕、民事被害者への返金という事態を迎えても、まだまだ懲りない神世界関係者は、これまで以上に巧みな隠れ蓑をかぶり、密やかに活動を続けていくのであろう。


3、男女別被害状況
 神世界事件の被害者は圧倒的に女性が多い。今回、和解や返金を受けることになった人たちは、被害者の中でも比較的戦う意志の強い人が多いので男性の割合が9%ほどになっているが、被害者全般を見渡したときには、その99%が女性だと言ってもよいのではないかと思う。私の所には、事件が公になってから二百数十名の被害者が連絡をしてきてくれたが、その中で男性の被害者はごくごくわずかだった。
 神世界も、初期の頃は男性も勧誘していたが、男性客は何かと言ってはクレームをつけてくることが多く、扱いにくいことが分かったので、全国展開する頃にはもっぱら女性をターゲットにするようになった。サロンの宣伝チラシにもはっきりと「女性専用」と書かれており、一時期まで出していたインターネット上のHPにも女性専用の文字が書かれていた。
 某神世界関係者によると、男性は理屈で考えるので、「御霊光が・・」と言った話が通用しにくく、その点、女性は感性で判断するので神世界としては扱いやすい存在だったとのことだ。確かに、占いや運勢相談、手相見に足を運ぶのは大多数が女性であり、そうしたものに対する抵抗感が少ないので、神世界としては女性は絶好のカモだった。
 また、30歳を超える女性では、4人に1人という高い確率で子宮筋腫を起こすとされており、その他の婦人科系の病気も含めると、多くの女性がなんらかの婦人科系の病気に悩んでいる。神世界はそこに目をつけ、「病気の原因は先祖の霊の祟りだ」などと根拠のない因縁話で脅し、金を巻き上げる材料に利用した。
 従来であれば、女性を騙すのは”悪い男”と相場が決まっていたが、神世界事件の首謀者は、日原易子、斉藤葉子、淺原嘉子、佐野りら、杉本明枝、W田M和、M入E実など、女性が多数を占めていた。客を接客するスタッフも、できるだけきれいな女性を配置し、同性である安心感を悪用して詐欺を繰り返していた。女性が女性を騙してきたのが神世界犯罪であるが、それらの者を操っていたのが斉藤亨、佐野孝、淺原史利、W田K司などの男だ。


4、新たな被害申告
 和解が成立したとの報道が流れて以来、被害対策弁護団には、これまで声を上げていなかった被害者からの相談が少なからず寄せられているとのことだ。今回の和解によって神世界側から取り戻すことができた金は5億円以上であるが、平成13年から平成19年までの神世界の売り上げは、少なくとも189億円以上と言われていることからすれば、今回の和解によって被害回復できた額は微々たるものでしかない。
 被害対策弁護団では、今後も被害者の救済に当たって行くとのことなので、これまで声を上げていなかった被害者の方は、ぜひ弁護団に相談していただきたい。
 神世界に巨額の金が残ってしまうことは、再び同じような被害が出続ける危険性が大であり、この機会に徹底して神世界を壊滅させるためにも、被害者の方は声を上げていただきたい。神世界被害対策弁護団があるリンク総合法律事務所の電話番号は、03-3515-6681だ。


(参考)

損害賠償請求していた113名を、原告48名と訴外請求者65名に分けて集計した表など
(損害額はいずれも慰謝料などを含まない実損額)
表1・原告48名
表2・訴外請求者65名
表3・両者を合算した表



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